インディから国民的ロック・バンドへ 〜レイザーライト『レイザーライト』(2006)【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#417

B000GLKP8U
⭐️⭐️⭐️

【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#417
Razorlight
“Razorlight” (2006)

レイザーライトは2003年にデビューした、英ロンドンのバンドだ。

1stアルバムは刺々しいサウンドと疾走感の、攻撃的なポスト・パンク風のアルバムだったけれども、本作では一転して、明るく、飾り気がなく、余計なものを全部ひっぺがしたような、裸のメロディに溢れた、純朴と形容したいような親しみやすいアルバムだ。

まるで不良少年が急に真面目なクラス委員長に転身したみたいな二重人格かと思うほどの違いだが、きっと何か思うところがあったのだろう。将来について考えたのかもしれない。一生インディーズでやさぐれているべきか、メインストリームの華やかな競争社会で真っ向勝負して一攫千金を狙うべきかと考えたのかもしれない。

結論として、後者を取ったのだろう。たしかにこの路線であれば、スタジアム・ライヴを開催するようなビッグ・バンドになるのも夢ではないかもしれない。

そして、実際にそうなった。

2ndアルバムながらセルフ・タイトルを冠したのも「俺たちはこれで行くことにした!」という決意の表れだろう。人からなんと言われようと。賞賛されようと、批判されようと。

実際、本作は全英1位を獲得したものの、その評価は賞賛と酷評に二分した。例えばNME誌のレビューでは高く評価されたものの、その年のNMEアワードの読者投票ではワースト・アルバムにノミネートされたように。

あざといメジャー志向や、売れようという野心がけしからん!というわけだが、わたしはこの手のインディーズ礼賛や「非商業主義こそロック」みたいな精神論的批判にはもううんざりしている。わたしはロックに何か必須の精神があるとしたら「非商業主義」でも「反体制」でもなく、「自由」だと思っているので、自分たちが思うように、なんでも好きなようにやったらいいのである。

本作は2006年7月にリリースされた。フロントマンのジョニー・ボレルの強い希望によって、プロデュースにはセックス・ピストルズの『勝手にしやがれ』で有名なプロデューサー、クリス・トーマスを起用した。

【オリジナルCD収録曲】

1 イン・ザ・モーニング
2 フー・ニーズ・ラヴ
3 ホールド・オン
4 アメリカ
5 ビフォア・アイ・フォール・トゥ・ピーセズ
6 アイ・キャント・ストップ・ディス・フィーリング
7 ポップ・ソング2006
8 カービーズ・ハウス
9 バック・トゥ・ザ・スタート
10 ロサンゼルス・ワルツ

本作の大ヒットを牽引したのは、全英1位を獲得してバンドの代表曲となった「アメリカ」だろう。この曲のアイデアを持ち込んだドラマーのアンディ・バロウズは次のように語っている

「”America”は、インディー・バンドがポップ・グループになった瞬間だった。あの曲は、バンド全員とジョニーが共作者としてひとつになれた滅多にない素晴らしい瞬間だったんだ」(Music Week 誌インタビュー 2017年10月)

退屈してどこかへ出かけても
また帰ってくるだけ
眠れなくてタバコに火をつけるけど
TVにもラジオにも僕にとって意味がある番組はひとつもない

生まれてからずっと、アメリカを見つめてた
そのアメリカでパニックが起きている
そのアメリカでトラブルが起きている
(written by Johnny Borrell, Andy Burrow)

結局イギリス人の若者というのは、ビートルズやストーンズがそうだったように、このレイザーライトの世代になっても、ずっとアメリカの音楽や文化に憧れを抱き続けているのだろうか。

ブリティッシュ・ロックというものは結局、アメリカのブルースやカントリーといったルーツ・ミュージックに憧れ、真似し続けたところから始まっているわけだし、だから極端に言えば、イギリス人がアメリカに憧れを抱かなくなったら、その時点でロックという音楽は終了するのだろうと思う。

ロックとは、イギリス人にとっても日本人にとっても、そしてアメリカの若者たちにとっても、古き良きアメリカが象徴した「自由の国」への憧れによって生まれてくる音楽なのかもしれない。

ロックが衰退してきたのも、アメリカという国がいろんな意味で変化してきているからかもしれない。無条件で憧れるにはあまりに疑問が多く、闇が深い。

われわれのような昭和生まれの日本人なら、その豊かな生活と華やかな文化を持つアメリカに憧れていたことを憶えているけれども、80年代以降、その憧れは徐々に衰えていったように思う。

わたしはどういうわけか自分の国の音楽よりアメリカの音楽を好きになってしまったし、アメリカ映画は山ほど見たし、実は小説もアメリカの作家を特に好んで読んだ。

アメリカが大好きだ、なんて一度も考えたことはなかったけれども、わたしもどっぷりアメリカ漬けのピクルスみたいになって生きてきたに違いない。

この歌が作られたときのアメリカは、9.11後の、アラブ系やイスラム教徒が不信の目で見られ、分断が進み、さらにはイラクへ米軍が侵攻してフセイン大統領を拘束、この年の年末に処刑された。

20年後の現在、アメリカの状況はさらに悪化しているように思える。

理屈ではなく、気持ちのほうを正直に言えば、わたしはアメリカの大統領が「アメリカ合衆国を再び偉大な国にする!」と言えば、「ああ、ぜひそうしてくれ」と思う。

しかし中東や南米などで行われたように、よその国を爆撃して何かを奪おうとする姿には「それはなんか違うでしょ」と思うのだ。

だから、レイザーライトが歌っている気持ちも理解できるし、21世紀になってどんどんロックを聴く若者が少なくなっていってることも、なんとなく理解できるのだ。

↓ 全英1位の大ヒットとなり、一躍レイザーライトの知名度を高めた「アメリカ」。

↓ 全英3位のヒットとなった「イン・ザ・モーニング」。

(Goro)