90年代ロックの最終地点 〜ナイン・インチ・ネイルズ『ザ・フラジャイル』(1999)【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#379

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⭐️⭐️⭐️

【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#379
Nine Inch Nails
“The Fragile” (1999)

わたしの「名盤500」が選ぶ、1990年代最後のアルバムである。

90年代ロックが、行くところまで行ってしまったという意味では最後を飾るに相応しいアルバムと言える。

ロックンロールの変わり果てた姿、もはや異形の怪物のようだと言えるけれども、しかしまだロックンロールである。アートであり、音楽である。

この先はもうない、という気がする。この先はもう怪物どころか、生き物ですらなくなるような気がする。だからもう、ロックンロールの進化は、これぐらいで幕引きがちょうどいいと思う。

本作は大ヒットした前作『ダウンワード・スパイラル』から5年という長いインターバルを経て、1999年9月に3rdアルバムとしてリリースされた。CD2枚組23曲、104分収録の大作である。2枚のDiscはそれぞれ「Left」「Right」と名付けられている。

【オリジナルCD収録曲】

[Left Disc]

1 サムワット・ダメージド
2 ザ・デイ・ザ・ワールド・ウェント・アウェイ
3 ザ・フレイル
4 ザ・レッチト
5 ウィアー・イン・ディス・トゥゲザー
6 ザ・フラジャイル
7 ジャスト・ライク・ユー・イマジンド
8 イーヴン・ディーパー
9 ピルグリミッジ
10 ノー、ユー・ドント
11 ラ・メール
12 ザ・グレイト・ビロウ

[Right Disc]

1 ザ・ウェイ・アウト・イズ・スルー
2 イントゥ・ザ・ヴォイド
3 ホエア・イズ・エヴリバディ?
4 ザ・マーク・ハズ・ビーン・メイド
5 プリーズ
6 スターファッカーズ,INC.
7 コンプリケイション
8 アイム・ルッキング・フォワード・トゥ・ジョイニング・ユー、ファイナリー
9 ザ・ビッグ・カム・ダウン
10 アンダーニース・イット・オール
11 ライプ(ウィズ・ディケイ)

発売当初の週こそナイン・インチ・ネイルズにとって初の全米1位となったものの、翌週には16位まで落ち、結果的に前作の370万枚のセールスには遠く及ばず、90万枚にとどまり、セールス的には失敗作と見做された。

やはり2枚組という点が商業的にはネックになったのかと思うけれども、アーティストの創作意欲が絶頂のときに制作された過去の優れた2枚組アルバムがそうであるように、本作もやはりナイン・インチ・ネイルズの様々な側面を見せてくれて、ファンとしては興味深く、聴くたびに発見があり、飽きることがない。

基本的にはデジタル機器と電子楽器というわたしにとってはもうわけのわからない機械で作られていながら、時折挿入されるアコギ、ヴァイオリン、チェロ、トランペット、生ドラムなどのアコースティック楽器の響きが新鮮に映える。

本作を失敗作と断じた評論家には、2枚組であることから「長すぎる」「冗長である」「後半がダレる」などという酷評をした者もあったようだが、奴らにとってはCDを聴くことが「仕事」なのであり、2枚組のCDなど「残業」を強いられているような気分になるのだろう。われわれリスナーはそんな気持ちで聴いたりはしないものである。時間がなければ2日に分けて楽しむだけだ。

ナイン・インチ・ネイルズは「インダストリアル・ロック」というジャンルに分類されるけれども、そのジャンル自体はわたしは好きではなく、ほとんど聴かない。でも、ナイン・インチ・ネイルズだけは別だ。彼らの音楽は「機械の音響作品」ではなく、「人間の音楽作品」だからだ。

本作もまた、ノイジーで騒々しく、ひどくヘヴィな作品とも言えるけれども、あくまで音楽的であり、歌心があり、尖った美しさが見え隠れし、芸術であることをやめず、さらにはロックンロールのカッコ良さと興奮をしっかり備えているのである。

↓ トレント・レズナーが「この曲は自分が書いた中で最高の曲だが、ライヴでは十分に表現できないとわかっていた」と語る「ウィアー・イン・ディス・トゥゲザー」。シングル・カットされてヒットしたが、ライヴで演奏されることはほぼないという。

↓ かつては師弟関係にあったマリリン・マンソンとの訣別を念頭に置いて書かれたという「スターファッカーズ,INC.」。2009年のモジョ・マガジン誌でレズナーは次のように語っている。「彼は成功するために誰の顔でも踏みつけるような悪意のある男だ。彼は境界線を越えてしまった。今はもう、ドラッグとアルコールで脳がやられたピエロにしか見えない」

(Goro)