極限まで遅く! 〜ベック『シー・チェンジ』(2002)【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#399

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⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#399
Beck
“Sea Change” (2002)

全曲、スロー・テンポ。

どれもアダージョかアダージェットである。速くてもアンダンテぐらいまでで、アレグロやアッサイは1曲もない。

スローだからといって暗いわけでもない。内省的で、諦念的で、達観したようなところと、それゆえの寂寥感がないまぜになった感じだ。

若い頃のニール・ヤングやボブ・ディランを思わせるような、アコースティック・ギターを前面に出したシンプルでフォーキーな曲ばかりだが、とはいえ地味というわけではなく、ストリング・オーケストラやシンセサイザーや数種の鍵盤楽器など、一見ミスマッチのようなオシャレな装飾が施されている。

ベックといえば、ルーツ・ミュージックとヒップ・ホップやファンクを融合させた、いかにも時代の先端をいくようなミクスチャー的な音楽性が特徴だったが、ここではヒップ・ホップもファンクも封印して、サンプリングもエフェクトも排除して、時代を超越したような、いにしえのロマンと現代のリアリズムが共鳴したような、新鮮かつ驚くべき豊かな音楽を創造している。

本作は、ベックの8枚目のアルバムとして2002年9月にリリースされた。

タイトルの”Sea Change”は「劇的な変化」という意味だ。ベックが30歳になる直前、9年間連れ添った婚約者の浮気が発覚して破局した経験と、音楽性の大胆な変化をかけたタイトルと想像できる。

ベックは失恋によって絶望のどん底にあった時期に、わずか一週間の間に本作のほとんどの楽曲を書き上げたという。

【オリジナルCD収録曲】

1 ザ・ゴールデン・エイジ
2 ペイパー・タイガー
3 ゲス・アイム・ドゥーイング・ファイン
4 ロンサム・ティアーズ
5 ロスト・コーズ
6 エンド・オブ・ザ・デイ
7 イッツ・オール・イン・ユア・マインド
8 ラウンド・ザ・ベンド
9 オールレディ・デッド
10 サンデイ・サン
11 リトル・ワン
12 サイド・オブ・ザ・ロード

オーケストラの重厚な響きが美しく、同時にアコギの繊細な響きが美しい。

たしかに「劇的な変化」と言えるアルバムだが、わたしは以前のベックより断然こちらの方が好きだ。というか、わたしがあのどことなくイカサマ師っぽいイメージがあったベックのアルバムを、こんなに哀愁を感じ、感動的な気持ちで聴く日が来るとは思わなかったぐらいだ。このアルバムを聴いていると、わたしは心が安らぐ。

プロデューサーはレディオヘッドの『OKコンピューター』や『キッドA』で名を上げたナイジェル・ゴドリッチだ。本作では「とにかくテンポを遅くすること」に執念が注がれたという。ベックは後に次のように語っている。

「すべてが常軌を逸したスローテンポなんだ。演奏するのが不可能に近いほどにね。レコーディングの最中は、いつも『もっと遅く、さらに遅くしよう』と言い合っていた。遅くなればなるほど、演奏するのも歌うのも難しくなる。だけど、そうすることで、単なるシンガーソングライターの退屈な曲になりかねなかったものが、引き伸ばされて全く別の何かに生まれ変わったんだ」(英ガーディアン紙インタビュー2014年)

「極限までテンポを遅くする」という試みは、ニール・ヤングがその昔に「ヘルプレス」や「ハーヴェスト」などで試みたこととたぶん通じるものだろう。

興奮を高め熱狂を引き起こす「速さの魅力」というものもあれば、気持ちを静め、心に深く入り込む「遅さの魅力」というものもあるに違いない。

↓ 本作を代表する失恋ソング「ロスト・コーズ」。「すべてのエネルギーが底をついて、もう一歩も進めないという感覚を歌にした」という。

Beck – Lost Cause

↓ これも同じく失恋ソングの「ゲス・アイム・ドゥーイング・ファイン」。タイトルは「まあ、僕は大丈夫だと思う」というような意味だ。

Beck – Guess I'm Doing Fine (Official Music Video)

(Goro)

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