In The Stars (2026)
どえらい時代になったもんだ。
わたしがストーンズを聴き始めたのは、1983年のライヴ映画『レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー』が公開されて日本でも大きな話題となり、それで彼らを知ったあたりからだ。
そのときすでにミック・ジャガーとキース・リチャーズは40歳。当時はまだ、そんな歳になっても第一線で活躍しているロックバンドはほとんどなく、十代のわたしは「えらく歳食ったロックバンドだなあ。でもそれが渋くてカッコいい」なんて思って聴き始めたものだった。もうその当時から、彼らはすでにロック界のレジェンドみたいなものだったのだ。
あれから四十数年。
ストーンズはメンバーは減ったものの解散することなく、今も現役で活動していて、今年また新譜を出すという。ミックとキースはなんと、82歳だ。彼らに比べるとずっと若いイメージだったロン・ウッドでさえすでに喜寿を超え、78歳なのだ。
どえらい時代になったものだ。
新しいアルバム『Foreign Tongues』は7月10日の発売予定だが、リード・シングル「イン・ザ・スターズ」はすでにリリースされ、ミュージック・ビデオも昨日からYouTubeで公開されている。
恐ろしいのはこのMVだ。
この曲を演奏しているミック、キース、ロンが若い。30歳ぐらいの感じである。そして時折、なんだか魂が抜けたような表情を見せる。
監督のフランソワ・ルッセレによると、これはAIを使って作成した「ディープ・フェイク」ということらしい。
「ディープ・フェイク」という言葉を、有名人を悪用した裏動画の問題以外で、公式に使われるのを初めて聞いた。オフィシャルのディープ・フェイクということである。
たしかに大昔からローリング・ストーンズは、それまでの常識を打ち破るようことや、新しい技術を使うことを嬉々としてやってきたようなバンドでもあったので、この手法もまた時代の流れの必然というか、シニカルなユーモアを込めながら、新しい技術による創造の扉を開いてみせたように受け取れる。
ブライアンやチャーリーまでAIで作り出さなかったのは一応最低限のモラルだけは守ってる感じはするし、全体としては確かにカッコいい出来だけれども、しかしこうなると、じゃあミックの声はどうなんだろう? 82歳の本物の声なのか? という疑問も湧いてきてしまうのである。
さらに疑問は次々に湧いてきて、キースとロンのギターは本当に弾いてる音? いや、そもそもこの曲自体、ジャガー&リチャーズが本当に書いた? まさかAIが作ったんじゃないよね? という疑問にまで発展する。まさかこの後、初音ミクが3DのCGでライヴを行ったように、ストーンズもAI生成された3Dによる30歳の姿でワールド・ツアーを行うのではあるまいかとまで想像は広がる。
実際それらはすべて、やろうと思えばできるのである。そしてたぶん近い将来、もはやいちいち拒否反応や疑問を抱くこともないぐらい当たり前のことになっていくのだろうと思う。
どえらい時代になったもんだ。
それで肝心の、曲の出来はどうかというと、これが非常に良いのだから困ってしまう。いや、べつに困ることはないのだけれど。
ギターはストーンズらしさ全開だし、傘寿を過ぎた後期高齢者が書いたとは思えないほどポップで勢いがあり、瑞々しさと爽快さ、ついでに色気まで感じる、活きの良い曲である。
なんか、言いたいことは山ほどあったはずだけど、曲を聴いてしまうともう、黙るしかないのである。アルバム・リリースの報を知ったときは、どこか楽しみよりも心配が勝つような気持ちだったけれども、こうなるとじわじわと興味を惹かれていく。
この先きっと、わたし自身もまた、AIで作ったものだらけの世界にどんどん慣れていくのだろう。
このMVのディープ・フェイクにはきっと否定的な意見が多いだろうけれども、ストーンズがやったとなれば、同じ手法を使うバンドやアーティストもきっと出てくるだろう。
楽曲だって、すでにAIで作成しているアーティストだっているのだろう。そして中には画期的で芸術的にも優れた、AIによる作品やディープ・フェイクも現れ、高く評価され、これはこれで認められていく、という時代になっていくのだろう。
どえらい時代になったものだ。
↓ 「イン・ザ・スターズ」のMV。いろんな時代の様々なジャンルのミュージシャンが大挙して演奏する。どこまでが本当の人間で、どこからがAIで生成されたものなのか、もはやわからない。
↓ カップリングの「ラフ・アンド・ツイステッド」。コッテコテのブルース・ロックで、爆裂ハードなギターが聴ける。みんな元気で何より。
(Goro)



