甲斐よしひろを中心に福岡市で結成された甲斐バンドは、1974年にシングル「バス通り」でデビューした。
翌年の2ndシングル「裏切りの街角」がヒットして知名度を上げ、その後もライブを中心に活動して熱狂的なファンを確実に増やしていく。
そして1978年の「HERO(ヒーローになる時、それは今)」で大ブレイクし、本人たちも出演した時計のセイコーのCMで使われこともあり、大人はもちろん小・中学生までが知る、当時の日本で最も有名なロックバンドのひとつになった。
わたしも彼らのことを、その「HERO」で知った。小学6年生の時だった。
それまでもテレビの歌番組には「ロックバンド風の歌謡曲の人たち」はたくさん出ていたけれど、甲斐バンドは、ちゃんとロックの世界から来た人たちだという感じがした。
当時のわたしの家にはレコード・プレーヤーがなかったので、わたしはラジオから流れてくる彼らの曲を聴くだけだったけれども、今思えば、わたしが初めて好きになったロック・バンドだったと言えるかもしれない。
日本語と英語を混ぜたテキトーな歌詞で「洋楽風」にするわけでなく、日本語がもともと持っている特性に逆らわず、むしろ生かしながらロックのサウンドに乗せ、テキトーじゃないリアルで詩的な日本語で、独自の世界を歌うそのカッコ良さにシビれたものだった。
リーダーの甲斐よしひろはその優れたソングライティングだけでも他のテレビ向きバンドとは比較にならないほどだったけれど、それを歌う声がまた絶品だった。パワフルでワイルドなのに、同時に少年のような純粋さやか弱さがあり、独特の色気を放つ「甲斐節」は、唯一無二の魅力を放っていた。
以下はそんな甲斐バンドの名曲を、今回あらためて聴き直して選んだ、至極の名曲ベストテンです。
作詞・作曲:甲斐よしひろ 編曲:甲斐よしひろ&今井裕
甲斐バンドの2枚目のシングルで、オリコン7位の大ヒットとなった出世作。何カ月にも渡って売れ続け、75万枚以上を売り上げた。第8回日本有線大賞優秀新人賞受賞。
甲斐よしひろらしい優れた情景描写で、まるで青春映画のような映像が浮かぶ歌詞だ。そしてメロディとサウンド、歌い方も含めて、「歌謡ロック」の先駆となった名曲だ。
作詞・作曲・編曲:甲斐よしひろ
甲斐バンドの3枚目のシングルとして発表され、オリコンシングルチャート44位。ロックとジャズを融合させたような野心的な曲で、アコギとウッドベースの乾いた伴奏に、フィドルが印象的なアレンジが鮮烈で、滅法カッコいい。
この時代にこれをシングルで出す尖り方はさすが甲斐バンドだ。まるでモノクロの映画のワンシーンのように映像が浮かぶ歌詞もいい。
作詞・作曲:甲斐よしひろ 編曲:青木望
1977年リリースの4thアルバム『この夜にさよなら』からの先行シングル。甲斐よしひろのソング・ライティングの成長を感じさせるような、ドラマチックな曲だ。
しかし、オリコン69位。この時代の日本のロックとしては新しさはもちろん、かなり完成されたサウンドだと思うけれども、びっくりするぐらい売れていない。よく腐らずに続けてくれたものだ。
作詞・作曲・編曲:甲斐よしひろ
6枚目のシングルとして発表され、それまでのフォーク・ロック的なイメージから脱皮してクールなロック・サウンドへと進化し、ユーモアのある歌詞も含めて当時としては画期的かつ先鋭的な曲だった。
しかし70年代のシングルとしては唯一オリコン100位圏外と、まったく売れなかったようだ。これほどの名曲が売れないとなると、もはや彼らも絶望的な気分だったのではないかと想像してしまう。
作詞・作曲・編曲:甲斐よしひろ
1978年発表の5thアルバム『誘惑』収録曲。レゲエ風のリズムとハードなギター・リフによる、一度聴いたら忘れられない、オリジナリティ溢れる曲だ。
ライヴのアンコールなど終盤で演奏されて最高潮に盛り上がる、ファンに愛された曲。
作詞・作曲:甲斐よしひろ 編曲:甲斐バンド&石川鷹彦
1979年に発表された、オリコン4位の大ヒット曲。日本では最も有名なクリスマス・ソングのひとつとなった。甲斐よしひろの独特のコブシが遺憾なく発揮された歌唱が素晴らしい。
イントロのギターは、たまたま同じスタジオに来ていた浜田省吾が弾いたという。
作詞・作曲:甲斐よしひろ 編曲:甲斐よしひろ&瀬尾一三
「裏切りの街角」以降まったくシングル・ヒットがなかった甲斐バンドをなぜか電通が大抜擢し、セイコーのCMソングとして起用、オリコン1位の大ヒットを記録した大ブレイク作。それまでの甲斐バンドのダークで艶っぽい楽曲のイメージを一新したような、明るくカラッとした、いかにもキャッチーな曲だった。
セイコーのCMには本人たちも出演していたけど、当時はコアなファン以外は彼らが誰なのかまったくわからなかったに違いない。
作詞:長岡和弘 作曲:松藤英男・甲斐よしひろ
4thアルバム『この夜にさよなら』収録曲。ローリング・ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィメン」を思わせる、いかにもロック調のイントロに歌謡曲テイストの色濃い歌詞とメロディー、そして甲斐節の効いた歌唱。甲斐バンドの魅力を凝縮したような名曲だ。
作詞はベーシストの長岡和宏、作曲は甲斐とドラマーの松藤英男の共作。ライヴのオープニング・ナンバーとしても定着していた、バンドのグルーヴを象徴する曲でもあった。
作詞・作曲・編曲:甲斐よしひろ
甲斐バンドの2ndアルバム『英雄と悪漢』のオープニングを飾る名曲。映画にまつわるタイトルや歌詞が多く、映画のワンシーンのようなイメージを喚起する楽曲が多いのも甲斐作品の特徴だけれど、この曲はその象徴とも言える代表曲だ。
出だしの「映画を見るならフランス映画さ」というフレーズは、きっと現代の若者には理解し難いだろう。当時は、アメリカのエンターテインメント映画よりも、フランスの少し難解な作家映画のほうが圧倒的に尖っていて、カッコ良かったのだ。
作詞・作曲:甲斐よしひろ 編曲:甲斐バンド&星勝
1980年の4月からスタートした、フジテレビの『土曜ナナハン学園危機一髪』という番組の主題歌として発表された曲。連続ドラマではなくて、毎週1話完結の1時間半のドラマを放送する枠で、問題を抱えるティーンエイジャーを主人公にしたシリアスなテーマの話が多かった。
当初はシングル化する予定はなく、番組プレゼント用の片面シングルとして製作されたが、60万通もの応募があったため急遽一般発売されることになった。オリコン14位。
わたしにとっては、その歌詞や焦燥を感じる攻撃的なサウンドに、他の歌謡曲とはまったく違う「リアリティ」というものを感じて、電流が走るようなショックを受けた曲だった。
以上、甲斐バンド【名曲ベストテン】でした。
入門用のベスト盤としては、2007年にリリースされた『甲斐バンド・ストーリーⅡ』をお薦めする。ここで取り上げた10曲もすべて収録されている。
(Goro)
