ジョニー・キャッシュ/パーソナル・ジーザス (2002)

Personal Jesus | Johnny Cash Official Site

【カバーの快楽】
Johnny Cash
Personal Jesus (2002)

ジョニー・キャッシュが2002年に発表し、そして生前最後のアルバムとなった『アメリカン・レコーディングスⅣ』に収録された、デペッシュ・モードのヒット曲のカバーである。

レコーディング当時ジョニー・キャッシュは70歳だった。そしておよそ1年後に、この世を去ることになる。

ジョニー・キャッシュがデペッシュ・モードをカバーするなんて、日本で言えば、森進一が電気グルーヴをカバーするようなものだろうから、聴く前は、話題性を狙った「面白カバー」なのかとわたしも思った。ちょっとした炎上商法みたいな。

しかしデペッシュ・モードのヴォーカリスト、デイヴ・ガーンは、ジョニー・キャッシュがこの曲をカバーしたことについて次のように語っている。

「ソロアルバムをレコーディングするためにスタジオにいたとき、マーティン・ゴア(デペッシュ・モードのギタリストで、この曲の作者)から電話がかかってきたんだ。ジョニー・キャッシュが「パーソナル・ジーザス」をカバーしたいらしいんだけど、許可するかどうか迷っていると言うんだ。僕は『何言ってんだ、正気か?エルヴィスが頼むようなもんだよ、もちろん許可するさ!』って言ったんだ。そしたら彼は、いかにもマーティンらしい言い方で『ああ、まあ、そうかな』って感じだった」(All Music 2017年)

きっとマーティン・ゴアも、わたしと同じように「話題性を狙っただけの面白カバー」なのかと疑い、許可をためらったのではないかと思う。

しかし、実際に聴いてみて、わたしは衝撃を受けた。

全盛期をとっくに過ぎたジョニー・キャッシュの、しゃがれていながらもズドンと腹に響くような歌声は、老いてまた別の、わたしがこれまで体験したことのないような深い魅力を湛えたものだった。その声のインパクトに鳥肌が立つ思いだった。

「面白カバー」なんてとんでもない。ジョニー・キャッシュはガチだったのだ。

原曲はシンセ・ポップだが、ジョニー・キャッシュ版はアコースティック・ギターでリフを弾くアレンジである。プロデューサーのリック・ルービンはこのアコギのアレンジをレッチリのジョン・フルシアンテに依頼している。それだけでもこのカバーがガチ中のガチで制作されたことがわかる。

前述のデペッシュ・モードのデイヴ・ガーンは続けてこう語っている。「素晴らしいバージョンだよ、本当に最高だ」

波乱の人生によって業の深さを負った傷だらけの声。その声の重み、存在感、枯れた味わいの奥深さ、そして老いてもなお決して失われていない滾るような熱量。

「老いて熟した声によるロック」という、新たな音楽の魅力をわたしは発見した思いだった。

アルバムは素晴らしく、中でもこのカバーはわたしが最も好きなもののひとつだ。

Personal Jesus

↓ 1989年8月にシングル・リリースされたデペッシュ・モードのオリジナル。全英13位、全米28位のヒットとなった。

Depeche Mode – Personal Jesus (Official Video)

(Goro)