ディクシー・チックス/ザ・ロング・ウェイ・アラウンド (2006)

The Chicks – The Long Way Around Lyrics | Genius Lyrics

【反体制女子ロックの快楽】
Dixie Chicks
The Long Way Around (2006)

米国のみならず世界を騒がせ、バンド史上最も困難な時期を迎えることになるそのときまで、米国のカントリー系グループであるディクシー・チックスは、1998年と2000年に発表した2枚のアルバムが連続して1,000万枚以上を売り上げるなど、史上最高のレコード・セールスを記録した女性グループとして成功を収め、人気を不動のものとしていた。

しかし、そんな彼女たちが国内で激しい批判に曝されることになったのが2003年のことだった。

発端は、ロンドンでの公演中における、リード・ヴォーカルのナタリー・メインズのMCだった。ナタリーは「みんな知ってると思うけど、あの大統領が私たちと同じテキサス州出身であることを恥ずかしく思うわ」と発言し、当時イラクへの侵攻の準備を進めていたジョージ・W・ブッシュ大統領を批判したのだ。反戦ムードが高まっていたロンドンの観客たちからは歓声が上がった。

ナタリーはさらにその2日後にも「大統領が多くのアメリカ人の意見を無視し、世界と隔絶しようとしているように思える」とも話した。これらの発言がイギリスの新聞に載り、アメリカのメディアがそれを拾い上げたことによって、アメリカ国内でディクシー・チックスに対する激しい反応が巻き起こった。

「彼女はアメリカの頂点にいる人物に敬意が足りないし、しかも海外で批判すべきではない」

「今から戦争しようってときに大統領の悪口を言うとは非国民だ」

「カントリー・ミュージックを好む保守層のリスナーに気を配るべきで、彼女は政治的な立場を表明すべきでなかった」

全米最多1,200のラジオ局を傘下に持つクリアチャンネルグループは「我々の街とリスナー、そしてアメリカ軍兵士へ敬意を示すため、ディクシー・チックスをプレイリストから外しました」といち早く表明し、それに追随して多くのカントリー・ラジオ局のプレイリストからも外されることになり、ラジオ局の前には「ディクシー・チックスCD廃棄箱」も設置された。

ルイジアナ州のカントリーラジオ局KRMDでは「ディクシー・チックス廃棄デー」と題し、”元”ファンから集めたCDなどをトラクターで轢き潰したあと、参加者たちが踏みつけるというイベントを開催した。

タカ派のカントリー界の大御所トビー・キースは公然とグループを批判したし、テキサス州ダラスでは「公演中に彼女たちを狙撃する」という殺害予告があり、コロラド州のラジオ局のDJの2人は、ディクシー・チックスの曲をかけようとして停職処分となった。そしてなんと、アメリカの赤十字社は、ディクシー・チックスからの100万ドルの寄付を断った。

日本人からするとちょっと信じられないぐらい過剰な反応に思えるし、体制批判なんてグリーン・デイやレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンなどは普段から公然とやっている。なのにディクシー・チックスに対しては強い反発があるというのは、やはり彼女たちがカントリーというジャンルに属するアーティストだったからだろう。米国民の中でも特に白人保守層に支持されている音楽ジャンルだからだ。

ブッシュ大統領本人は、この騒ぎについて次のように語った。

「ディクシー・チックスは思ったことを述べたまでだ。気にしていないよ。だって思ったことを話し、行動に移す権利は、アメリカ人として当然保有しているわけだからね。そういったところこそ、アメリカが他国と差をつけているポイントだね。それを荒れ果てたイラクの地にも与えるんだ!」。いろんな理屈があるものだ。

その騒動から3年後の2006年、彼女たちは鬼才リック・ルービンをプロデューサーに起用し、7枚目のアルバム『テイキング・ア・ロング・ウェイ』を発表した。

シンプルで、キャッチーで、力強いアルバムだ。わたしがその年何度も繰り返し聴いた曲が、アルバムの冒頭を飾る、この「ザ・ロング・ウェイ・アラウンド」である。

バンドの生き様そのものを歌った曲である。地元テキサスでの少女時代から、周囲の期待や「従順なカントリー・アイドル」としての枠組みに馴染めなかった過去を振り返り、「安全で近道な人生」を選ばず、傷ついても自分たちの信念に従って「遠回り(Long way around)」を選んできたと歌う。

カントリー界と保守層の批判にさらされ、ラジオのエアプレイも最小限でありながら、しかしアルバムは全米1位、アメリカだけで250万枚を売る大ヒットとなった。

さらにはその年のグラミー賞で、最優秀アルバム賞、最優秀シングル賞、最優秀カントリーアルバム賞など5冠に輝き、主要な賞を独占した。3年にわたる彼女たちの戦いに、ついに決着がついたのである。

ちなみにバンドは、2020年に、バンド名をディクシー・チックスから、ザ・チックスへと変更している。

The Long Way Around

(Goro)