イギー・ポップ率いるザ・ストゥージズは米ミシガン州デトロイトで結成し、1969年にヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルのプロデュースでレコード・デビューした。
バンド名の「Stooges」は、「バカたち」という意味だ。
1930~40年代に人気を博したアメリカのコメディ・グループ「三バカ大将(The Three Stooges」)から取ったという。
また幼少時のイギーは、子供番組に出てくる、スタジオで暴れてめちゃくちゃにしてしまうエキセントリックなコメディアンが大好きで、彼が番組の最後に言う「ファンレターは25語以内でお願いね!」というフレーズを心に刻み、歌詞もできるだけ25語以内で書くことを心掛けていたと言う。
また、やはり幼少期に父に連れられて行った地元の金属成形の工場見学で、その機械音の大音響に快感を感じたとも言う。
イギーとストゥージズの音楽にはそんな童心のままの純粋さ、単純さ、電気と金属による騒音の快感、破壊的なユーモアが本質にあると思う。
雄叫びを上げ、耳をつんざくようなギターが鳴り、単純なリズムが暴力的な推進力で延々と繰り返される。
その凶暴さとエネルギーの爆発は類を見ない。
わたしの、もはや腐食して風化しかけた童心でさえも、彼らの音楽を聴くと俄然生き生きと反応する。
20万年前のネアンデルタール人にビートルズを聴かせてもたぶん理解できないだろうが、ストゥージズなら気に入ってもらえるような気がする。
以下は、わたしが愛するザ・ストゥージズの、至極の名曲ベストテンです。
1969
ストゥージズの1stアルバムの冒頭を飾る、「去年おれは21歳で、たいして面白いことも無かった。なのにもうすぐ22になる。なんてこった。最悪だ」と歌う曲だ。
レコードに針を落とすとこの、工場の機械でなにかをグシャッと潰してバリッと引き裂いているようなイントロが流れてくるのが、最高の瞬間だった。
プロデューサーはヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイル。
いかにも退屈そうなヴォーカルにフラストレーションの爆発みたいなノイジーなギターが絡まる作風は、ヴェルヴェッツの影響もあるのだろう。
ストゥージズというと絶叫型パンク・ロックの印象が強いけど、こういうクールな作風がベースにあるからカッコいいのだと思う。
1970
ヒット曲「ルイ・ルイ」で有名な、史上初のハード・ロック・バンド、キングスメンのオルガン奏者、ドン・ガルッチのプロデュースによって制作された名盤『ファン・ハウス(Fun House)』収録曲。
1stよりも、よりストゥージズの狂暴性や破壊力、原始的なロックの魅力を際立たせたプロデュース・ワークが素晴らしすぎる。ただし、まったく売れなかったため、ストゥージズはエレクトラをクビになる。
この曲は、ダムドが1stアルバムでカバーして有名になった曲。
「I feel alright!」のヤケクソじみた絶叫がカッコイイ。
Free & Freaky
2003年に再結成したストゥージズが、34年ぶりに発表した4thアルバム『ザ・ウィヤードネス(The Weirdness)』からのシングル。
メンバーは、イギーとアシュトン兄弟のオリジナル・メンバー3人に、ベースのマイク・ワット(元ミニットマン)を加えたラインナップだ。
アルバムは、シンプルな楽曲とノイジーなサウンドは昔のままだけど、全体に明るい曲調が目立つのが特徴だ。まるでストゥージズをもう一度やれるのが嬉しくてたまらないみたいに。
No Fun
ジョン・ケイルのプロデュースのもと、たった2日で録音したという1stアルバム『ザ・ストゥージズ』収録曲。
「つまんねえ、面白くない、ひとりぼっちは退屈だ」と歌う歌だが、この不穏で攻撃的なサウンドに乗ると、今にもなにかやらかしそうなアブない狂気を感じる。
セックス・ピストルズがカバーしてレパートリーにしたことでも有名になった曲だ。
Loose
ストゥージズは結成当初、同郷のバンドMC5に強く影響を受け、MC5が練習しているスタジオをみんなでこっそり見に行ったりしたらしい。
この曲も、MC5を手本にしたようなデトロイト節のグルーヴがカッコいい。
MC5がエレクトラ・レコードから契約を打診されたとき、「おれたちを気に入ったのなら、もう一組お薦めのバンドがあるよ」とストゥージズを紹介し、めでたく2バンド同時契約の運びとなったそうな。
Gimme Danger
ストゥージズの曲としてはめずらしい、アコギのリフの美しい響きが特徴的なクールな曲だ。サイケデリック風味も心地よい。
イギーとメンバーたちのインタビューや当時のライヴ映像などで構成された、ジム・ジャームッシュ監督によるストゥージズのドキュメンタリー映画のタイトルにもなっている。
T.V. Eye
『ファン・ハウス』収録曲で、ストゥージズの代表曲のひとつだ。
冒頭のイギーの絶叫に総毛立ち、錯乱した殺人者が死体に刃物を繰り返し突き立てるような不穏なリフに圧倒される。
歌詞は、訳詞を読んでもまったく意味がわからないが、この冒頭の絶叫はわたしも車に乗っている時などに突発的にやってしまうことがしばしばある。そして頭の中をこのイントロが流れるのだ。
I Wanna Be Your Dog
1st『ザ・ストゥージズ』収録の、彼らのデビュー・シングル。
「きみの犬になりたい」と歌う、ウェディング・ソングにぴったりのこの曲は、恐ろしいほどの単純さと、説明不能なカッコ良さに、聴いた瞬間に「なんちゅーカッコいい曲だっ!」ってシビれる人と、「どこがどうイイのかぜんっぜんわからん!」という人にはっきりわかれると思う。幸か不幸かわたしは前者だったのだ。
ギターの強烈なフィード・バック・ノイズから一転してイントロが始まるカッコ良さから、エンディングのロン・アシュトンによる耳が壊れたのかと錯覚するようなファズ・ギターのソロまで、感電死寸前のナチュラル・ハイのような気分にさせてくれる。
Down on the Street
2nd『ファン・ハウス』の冒頭を飾る曲。
寝静まった深夜の街で、向こうから目の据わった狂人が歩いてくるみたいな緊張感。案の定、すれ違いざまにわたしの耳元で意味不明な絶叫を繰り返す。そんなイメージの曲だ。でもめちゃくちゃカッコいい。もう1回書こう。めちゃくちゃカッコいい。歌詞はやっぱりよくわからないけれども。
Search and Destroy
売れないうえにヘロイン中毒で使い物にならないためにレコード会社をクビになり、バンドは崩壊してしまったが、2ndアルバムから3年後にデヴィッド・ボウイが救いの手を差し伸べ、彼のプロデュースで3rd『ロウ・パワー(Raw Power)』を制作する。これはその冒頭を飾る強烈極まりない曲だ。
このアルバムでストゥージズ・サウンドの要であったギターのロン・アシュトンをベースに回してまで、新たに加入したジェームズ・ウィリアムソンにギターを弾かせた事情はよくわからない。ファンからすれば、ロン・アシュトン以上の気違いギタリストでなければ納得しないところだが、この曲を聴けば納得せざるを得ない。気違いギタリストだ。
さらに強靭に錯乱したストゥージズになって結果的には良かったと思うが、この素晴らしいアルバムはやはりまったく売れず、ストゥージズは解散してしまう。
以上、ザ・ストゥージズ【名曲ベストテン】でした。
(by goro)