簡単な仕事も務まらず、ニューヨーク・ドールズのファンクラブの会報を作りながら引きこもりのニート生活を送っていたモリッシーと、ギタリストのジョニー・マーが出会って結成されたザ・スミスは、1983年にデビューした。
70年代のパンク・ムーヴメントが終焉した後、英国ロックシーンは先鋭的で虚無的な、解体と創造のごたまぜの、混沌とした状況だったが、このスミスのインディーズからの登場によって、新たな共感とリアリティに満ちた英国ロックがスタートした。
ネガティヴな部分を堂々と歌詞に曝け出しながら〈ネオ・アコースティック〉と呼ばれた柔らかく軽やかで美しいサウンドに乗せたり、ときには実験的で攻撃的でありながらも親しみやすい鮮烈な楽曲が画期的だった。
80年代の真っただ中で、大流行中だったシンセサイザーとダンス・ビートを拒絶し、PVを作ることも拒否し、史上初の引きこもりのヒーロー、モリッシーの個性的なヴォーカルとジョニー・マーの作り出す美しいサウンドは唯一無比だった。流行のサウンドとは無関係だったからこそ、今なお色褪せない。
また、スミスによってインディーズ・ロックという概念は、商業的なロックと敵対する形となり、若いロック・ファンの多くは、より時代のリアリティが感じられるインディーズのほうへと流れることになった。わたしもそのひとりだ。
しかし、スミスはわずか4年で解散した。
名曲を連発した絶頂期に、過酷なスケジュールによる疲弊が人間関係を狂わせ、バンド内の不和や不信感へと繋がっていき、1987年にジョニー・マーが脱退すると、そのまま空中分解した。
スミスの音楽には、愛への飢えや、孤独や、青春の輝きや、喜怒哀楽の暴発など、たしかなリアリティがあった。
わたしは「80年代英国ロックはスミス一択だ」と思っていた時期さえあった。
そんなはずはないのだろうけど、そう言いたくなるような唯一無比の特別な存在であったのは間違いない。
以下は、わたしが愛するザ・スミスの至極の名曲ベストテンです。
The Boy with the Thorn in His Side
2ndと3rdアルバムの間に発表されたシングルで、全英23位。ジョニー・マーのギターを中心とした、軽やかで美しいスミス・サウンドを象徴するような曲だ。
「心に茨を持つ少年、その憎悪の裏に激しく愛に飢えた心が隠されている」と歌われる。
たぶんスミスのファン全員が自分のことを歌っていると思ったに違いない。
わたしもそのひとりだ。
Ask
スミスが最も勢いに乗り、名曲を連発した時期のシングルで、全英14位。
「なにかに挑戦したいと悩んでいるなら、僕に訊いてみて。絶対にノーとは言わないから」と歌う、滅法明るい曲調のポジティヴな曲だ。
スミスに暗くてネガティヴなイメージを持つ人が多いと思うけれど、実際はそれほどでもなくて、ポップでポジティヴな楽曲も結構多いのだ。
Girlfriend in a Coma
スミスの4枚目にして最後となったアルバム『ストレンジデイズ・ヒア・ウィ・カム(Strangeways, Here We Come)』からのシングル。全英13位。
「ガールフレンドが昏睡状態で死にかけてる、大変なことになった」と歌う、大変な状況のわりには、曲調は妙に明るく親しみやすい曲だ。
This Charming Man
スミスの2ndシングルで、全英25位と彼らの出世作になった代表曲。
「裕福な紳士と貧しい美少年が出会ったら」、という歌詞にどうしてもわたしは『コインロッカー・ベイビーズ』的ないかがわしいことを想像してしまう。
Panic
名盤3rd『クイーン・イズ・デッド』発売からわずか1か月後に発表されたアルバム未収録のシングル。全英11位。
「ディスコを焼き払え、僕の人生の足しになるようなことをひと言も歌っていない曲のお礼にDJを吊し上げろ! 吊るせ! 吊るせ!」と楽し気に歌う、過激な曲だ。
How Soon Is Now?
もともと84年のシングル「ウィリアム」のB面として発表されたが、翌年にA面としてあらためてシングル発売され、全英24位。
ジョニー・マーのギターを中心にエフェクトをかけたりして作り込まれた、ダークで攻撃的なスミス・サウンドを、存分に堪能できる6分45秒の長尺曲だ。
Bigmouth Strikes Again
全英2位となった名盤3rd『クイーン・イズ・デッド(The Queen Is Dead)』からの先行シングル。全英26位。
「ビッグマウスの口撃をまた始めてやろう。僕は人々の中には入れないんだから」と歌う歌だ。「またおれのことを歌ってやがるなぁ」と当時のわたしは思ったものだ。
Hand in Glove
ザ・スミスのデビュー・シングル。全英124位と全然売れなかったが、彼らの代表曲となっている。
なぜかフェード・インで始まるが、ハーモニカのイントロも印象的な、引きこもりなのに「世界は僕の手の中にある」と歌っている、なにかヤバい狂気性と、アブない切迫感を感じる曲だ。
The Queen Is Dead
名盤『クイーン・イズ・デッド』のオープニングを飾るタイトル曲。
「女王は死んだんだ、僕を信じなさい」と歌う、セックス・ピストルズ以来の過激な歌詞、不遜なモリッシーをさらに援護射撃するかのようなジョニー・マーのギター、アグレッシヴなビートがカッコよすぎる名曲。
There Is a Light That Never Goes Out
『クイーン・イズ・デッド』収録曲。
「2階建てバスが突っ込んできても、きみと一緒に死ねるなら最高の歓びだ。10tトラックに轢かれても、きみと一緒に死ねるなら最高に幸せだ」と歌うサビがメロディも含めて感動的だ。
ストリングスが美しいアレンジも、素晴らしい。
解散から5年後の1992年にシングルとして発売され、全英25位。
〔以上、歌詞の和訳はすべて、『ザ・スミス/ベストvol.1&2』の小林政美氏の対訳を参考にさせていただきました〕
入門用にスミスのアルバムを最初に聴くなら、『ヴェリー・ベスト・オブ・ザ・スミス』がお薦めだ。最初に聴くべき代表曲はすべて網羅されている。
以上、ザ・スミス【名曲ベストテン】でした。
(by goro)