今でこそ女性のシンガー・ソングライターなんてめずらしくもないけれども、その扉を開いたのはキャロル・キングだった。それどころか、中世から続く長い西洋音楽の歴史でも、初めて成功した女性の職業作曲家でもあった。
早熟の天才だったキャロル・キングのデビューは1958年、16歳のときで、もちろん自作の曲を自身で歌ったものの、セールス的には成功しなかった。
翌年に大学で知り合ったジェリー・ゴフィンとできちゃった結婚し、子育てをしながら、ジェリーが作詞を、キャロルが作曲をして、様々なアーティストに楽曲を提供すると、「ロコ・モーション」「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロー」など、大ヒットを連発した。
2人は68年に離婚し、70年代になるとキャロルはシンガー・ソングライターとして大成功を収めた。
彼女の60年代の名曲の数々は世界中で愛され、70年代の代表作『つづれおり』は、ロック&ポップスの歴史を変え、世界中から女性シンガー・ソングライターが続々と生まれるきっかけとなった。
わたしは彼女の「キャロル・キング節」というべき独特のメロディーがたまらなく好きだ。これこそアメリカン・ポップスの真髄だとわたしは思っている。
そして、ヴォーカリストとしての彼女の声も大好きだ。少しハスキーで、粘り気のある声は心にぺたんと貼りついてくる。知的でありながらも、素朴で誠実で愛らしい、魅力的な人間性の豊かな感情が伝わってくる。
以下は、わたしが愛するキャロル・キングの至極の名曲ベストテンです。
Nightingale
6thアルバム『喜びにつつまれて(Wrap Around Joy)』のオープニングを飾る曲で、全米9位のヒットとなった。作詞はデイヴ・パーマー。
当時十代だったキャロルの娘たち、ルイーズとシェリーがコーラスで参加している。
Been to Canaan
4thアルバム『喜びは悲しみの後に(Rhymes&Reasons)』からのシングルで、全米24位。詞もキャロル自身が書いている。
「カナン」は旧約聖書に出てくる「約束の地」のことだそうで、「今の自分に満足してるけど、ときどきどこか別の場所に行きたくなる。わたしたちはみんな、約束の地を必要としてる」と歌う曲だ。
Jazzman
6thアルバム『喜びにつつまれて(Wrap Around Joy)』からのシングルで、全米2位の大ヒットとなった。
作詞は元スティーリー・ダンのヴォーカリスト、デヴィッド・パーマーだ。トム・スコットによるサックスがまるでキャロルとデュエットをしているみたいに印象深い。
It Might as Well Rain Until September
キャロル・キングが20歳のときにリリースしたシングルで、全米22位、全英3位のヒットとなった。
彼女が60年代にリリースしたシングルでヒットしたのはこの曲だけで、この後70年代に入るまでは作曲を専業として、数々のアーティストに名曲・大ヒット曲を提供した。
すでにキャロル・キング節が濃厚に味わえる、彼女の原点のような曲だ。
(You Make Me Feel Like) A Natural Woman
2ndアルバム『つづれおり(Tapestry)』収録曲。1967年にソウルの女王アレサ・フランクリンに提供し、全米8位となり、アレサの代表曲となった大ヒット曲だ。作詞は元夫のジェリー・ゴフィンとキャロルの共作。「あなたといると、生きていることを実感できる。ありのままの女性でいられる」と歌うラヴソングだ。
2013年に出版されたキャロル・キングの自叙伝のタイトルもこのタイトルだ。たしかに、これ以上彼女に相応しい言葉はないかもしれない。
Where You Lead
2ndアルバム『つづれおり(Tapestry)』収録曲で、歌詞はトニ・スターン。
「あなたの言うとおりにしたい。あなたがついて来いと言うならどこまででも付いていく」という歌詞だが、それが古風な女性の考え方で、ウーマン・リヴの時代にはそぐわないということで長いあいだ演奏されず、2000年に歌詞を一部変えて再録している。そういう考えだって人それぞれの「多様性」に過ぎないのだから別にいいのにな。このままで充分名曲だ。
I Feel the Earth Move
2ndアルバム『つづれおり(Tapestry)』のアルバムのオープニングを飾る、力強くてアグレッシヴな曲だ。作詞もキャロルだが、どうやら性行為のことを歌っているらしい、かなり大胆な内容だ。
Will You Love Me Tomorrow
2ndアルバム『つづれおり(Tapestry)』収録曲。キャロルが18歳の時、1960年に書いてシュレルズに提供した曲で、全米1位、全英4位の大ヒットとなった。作詞はジェリー・ゴフィン。
「明日もままだわたしを愛していてくれる?」と不安な恋心を歌ったラヴソングで、シュレルズのバージョンよりも遅いテンポで感情をこめて歌い上げるのバラードになっている。
You’ve Got a Friend
2ndアルバム『つづれおり(Tapestry)』収録曲で、作詞もキャロルだ。グラミー賞最優秀楽曲賞受賞。
「わたしの名前を呼べばいつでも駆けつけるよ。どこにいようと、冬でも春でも夏でも秋でも。必ず、すぐに駆け付けるよ。君の友だちなんだから」と歌う感動的な歌詞が普遍的に共感されるのか、キャロル・キングの楽曲で最も多くカバーされた曲で、世界各国のアーティストがカバーしている。
最も有名なのはジェイムス・テイラーのカバーで、全米1位、全英4位の大ヒットとなった。
It’s Too Late
2ndアルバム『つづれおり(Tapestry)』からのシングルで、作詞はトニ・スターン。全米1位、全英6位の大ヒットとなり、キャロル・キングの代表曲となった。心に貼りつく粘り気と憂いのある歌声がまた素晴らしい。
大学生たちが卒業旅行をする1985年の青春映画『ファンダンゴ』のクライマックスで使用され、青春の終わりというせつないテーマによく合っていた。一度しか見てないのに今でも憶えているのは我ながら相当印象に残ったんだろうな。それ以来この曲を聴くと「青春の終わり」というせつないイメージが沸き起こる。
入門用にキャロル・キングのアルバムを最初に聴くなら、もちろんロック史上に輝く名盤『つづれおり』がお薦め。ベスト盤はそのあとで構わない。
(by goro)