若い頃は、ピンク・フロイドなんて大嫌いだった。
ジャケットもダサいし、どうせロックをこねくり回してぺしゃんこにしてバラバラに切り刻んで悦に入ってる、芸術家気取りのデブでよろよろのジジイたちだろうと想像していたのだ。
ちゃんと聴くまでは。
聴かず嫌いだったのである。
ほんと、知識も経験値も不足してるくせに先入観だけは強めで根拠のない自信に溢れている若者ほど愚かなものはない。
わたしがピンク・フロイドを初めてちゃんと聴いたのはもう30代も半ばになってからだった。レンタルでアルバム『狂気』を聴いたのだ。
なんか、思ってたのと違うじゃないか。
わたしはすぐに気に入った。
デヴィッド・ギルモアの血管ブチ切れシャウトや、キレッキレのギルモア・ギターに惚れた。なんだ、キレまくりギター・ロックじゃないか、ピンク・フロイドって、と思ったものだ。
それからわたしは、いちばんダサいと思っていた牛のジャケットから真っ先に購入し、順番にCDを買い集めていくほど、ピンク・フロイドにハマっていった。
ピンク・フロイドには速い曲がほとんどない。
あの、膝が悪いレスラーみたいにゆっくりと進むテンポがだんだんクセになってくる。
そして時折グッとくるあの濃厚な抒情性は、単なる芸術家気取りのインテリ野郎ではないな、と思わせるのに充分だった。
他のプログレ・バンドのことは知らないけれど、少なくともピンク・フロイドは本物のロック・バンドだと思った。
レディオヘッドを聴いてきた世代のロック・ファンが、ピンク・フロイドをどう思うのか聞いてみたい気もする。
以下は、わたしが愛するピンク・フロイドの至極の名曲ベストテンです。
One Of These Days
71年のアルバム『おせっかい(Meddle)』のオープニング・トラック。
われわれの世代にとっては、全日本プロレスに登場した悪役レスラー、アブドーラ・ザ・ブッチャーの入場曲に使用されたことで有名になった曲だ。小学生だったわたしが、初めて知ったピンク・フロイドの曲だった。
その不気味なベースラインと、曲の半ばで「One of these days, I’m going to cut you into little pieces(いつの日か、お前を細切れにしてやる)」という叫び声が入る、凶悪なイメージの曲だ。
ピンク・フロイドには速い曲がほとんどないので、この曲がいちばん速い印象だ。
言わば、ピンク・フロイドのロックンロールというか、ダンス・チューンというか。
Another Brick in the Wall Part 2
全世界で3千万枚を売る特大ヒットとなった2枚組コンセプト・アルバム『ザ・ウォール(The Wall)』の先行シングルで、全英1位、全米1位となった、ピンク・フロイド最大のヒット曲だ。
この曲がなぜこれほどの世界的なヒットになったのかは正直わたしにはよくわからないのだけれど、ピンク・フロイドにしてはキャッチーなシングルだったということなのかもしれない。
Atom Heart Mother
ピンク・フロイドを世界的にブレイクさせたアルバム『原子心母(Atom Heart Mother)』のタイトル曲で、23分もある超大作だ。
現代音楽の作曲家と組んで作ったというので、いったいどれだけ前衛的で難解な音楽なのだろう、と期待半分怖さ半分でちょっと構えて聴いてみたら、意外に尖った感じのしない、まさにジャケの虚ろな目をした乳牛や肉用牛の大行進のように、圧巻だけど鈍重なテンポで、全体的にはメロディアスで愛嬌のある音楽だった。
On The Turning Away
1983年にロジャー・ウォーターズが脱退し、デヴィッド・ギルモアが中心となったピンク・フロイドの第1作『鬱(A Momentary Lapse of Reason)』からのシングル。アルバムは全英3位、全米3位、オリコン23位のヒットとなった。
70年代のピンク・フロイドとは質感も変わりい、聴きやすくなった。抒情性はより深まってる。
High Hopes
90年代唯一のスタジオ・アルバム『対(The Division Bell)』のラストを飾るトラック。アルバムは全英1位、全米1位、オリコン7位と、ロジャー・ウォーターズ不在でも圧倒的なセールスは健在だった。
ギルモアらしい情感たっぷりの曲で、なんとなく『狂気』の頃に立ち還ったような、奥行きのあるしっかりしたサウンドが嬉しい。
Shine On You Crazy Diamond
『炎~あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)』のオープニング・トラック。アルバムは全英1位、全米1位、オリコン4位の世界的な大ヒットとなった。
ピンク・フロイドのアルバムの中でも特にせつない、ストレートに感情に訴えるアルバムだ。
「クレイジー・ダイアモンド」とは初期ピンク・フロイドのリーダーだったが、ドラッグによって精神に異常をきたして脱退したシド・バレットのことである。
ギルモアの豊かな感情とメロディが素晴らしいギターと、8分過ぎからやっと現れる歌も情感たっぷりで強い印象を残す。
Comfortably Numb
全世界で5千万枚を売った大ヒット作『ザ・ウォール(The Wall)』の収録曲で、前半のロジャー・ウォーターズとデヴィッド・ギルモアのツイン・ヴォーカルによる美しい歌と、後半にギルモアの凄絶なギター・ソロが炸裂する名曲だ。
動画は2005年7月2日に行われたイベント「LIVE 8」での一夜限りの再結成での演奏。
Wish You Were Here
名盤『炎~あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)』収録曲。アルバムは全英1位、全米1位、オリコン4位。
ピンク・フロイドを結成した初期のリーダーで、精神に異常をきたして脱退したシド・バレットを想いながら「あなたがここにいてほしい」と歌っている曲だ。
ピンク・フロイドの中でも、最も泣ける名曲だ。
Money
Billboard 200に15年間(741週連続)にわたってランクインし、全世界で5千万枚以上を売った代表作『狂気(The Dark Side of the Moon)』からのシングルで、全米13位の大ヒットとなり、アメリカでの人気を決定づけた。アルバムは全英2位、全米1位、オリコン2位。
長ったらしいイントロもなく、ラジオ向きのわかりやすい曲だ。途中のデヴィッド・ギルモアのギター・ソロにシビれる。
Time
『狂気(The Dark Side of the Moon)』収録曲だ。わたしが最初に、その声とギターに「ギルモアってカッケー…」と惚れたのはこの曲だった。
2分近くに及ぶ長い長いイントロが終わると、満を持したギルモアの、どやしつける怒声みたいな歌声が入ってくるところは最高だ。
初めてピンク・フロイドのアルバムを聴くなら、やっぱり代表作『狂気(The Dark Side of the Moon)』から聴いてみるのがお薦めだ。
これがピンとこなかったら、体質に合わないということだろうから、それ以上ピンク・フロイドに関わる必要もないと思う。
以上、ピンク・フロイド【名曲ベストテン】 でした。
(by goro)