1968年7月、その2カ月前にバッファロー・スプリングフィールドを解散したスティーヴン・スティルスと、前年にバーズを脱退していたデヴィッド・クロスビー、そしてブリティッシュ・ビート・バンド、ホリーズのメンバーであるグラハム・ナッシュがジョニ・ミッチェルの家で出会った。
スティルス作の「泣くことはないよ(You Don’t Have to Cry)」を3人でハモってみたときに手ごたえを感じ、グループ結成を思いついたという。グラハム・ナッシュはイギリスに帰国してすぐにホリーズを脱退した。
人気グループ出身の3人がグループを結成したことだけでも注目を浴びたが、1stアルバムが発表されると清爽なアコースティック・サウンドと奇跡のように息の合った美しいコーラスが絶賛される。
スティルスのもっとロック色を強めたいという意向でリード・ギタリストを探し、バッファロー・スプリングフィールド時代の盟友(仇敵?)ニール・ヤングが加入すると、2ndアルバムは全米1位となり、新たなアメリカン・ロックの顔となった。
しかし案の定、スティルスとの遺恨が再燃し、加入から1年ほどでヤングは脱退する。グループの全盛期はわずか2年ほどだったと言えるだろう。
まあこんな個性の強いメンバーが集まったグループが長続きするはずもないので、一瞬の奇跡で充分だったと思う。彼らはロックに新たなサウンドをもたらした、革命的なスーパー・グループだったのは間違いない。
以下は、わたしが愛するCSN&Yの至極の名曲ベストテンです。
Long Time Gone
1stアルバム『クロスビー、スティルス&ナッシュ(Crosby, Stills & Nash)』収録曲で、デヴィッド・クロスビーの作。2ndシングル「青い瞳のジュディ」のB面にも収録された。
Our House
名盤2nd『デジャ・ヴ(Déjà Vu)』収録曲で、グラハム・ナッシュ作。全米30位。
ナッシュの当時の恋人、ジョニ・ミッチェルの家で彼女のピアノで1時間で書いたそうだ。幸福感溢れる、優しく可愛らしい歌だ。ニール・ヤングは参加していない。
Wooden Ships
1st『クロスビー、スティルス&ナッシュ』収録曲。デヴィッド・クロスビー、スティーヴン・スティルス、ポール・カントナー(ジェファーソン・エアプレーン)、の共作。
核戦争後の地球で、かつての敵味方だった若者たちが出会い、共に生き延びようと木の舟に乗り「どうせおれたちなんかに用はないだろう。おれたちもこんな場所には用がない」と、新たなユートピアを探して旅立つという歌詞だ。いかにもこの時代らしい、ヒッピー思想に共鳴するような内容には否定的な意見もあった。
Wasted on the Way
CS&N名義の通算4枚目のスタジオ・アルバム『デイライト・アゲイン(Daylight Again)』からのシングルで、全米9位のヒットとなった。グラハム・ナッシュによる、ノスタルジックで心の琴線に触れるようなメロディが、一度聴いたら頭から離れなくなる。
Teach Your Children
名盤2nd『デジャ・ヴ』からのシングルで、全米16位のヒットとなった。グラハム・ナッシュがホリーズ時代に書いた曲だったが、ホリーズでは採用されなかったという。ナッシュは可愛らしい曲を作るのが得意だな。
日本でも大ヒットした映画『小さな恋のメロディ』で印象的に使用されていたことで、人気が高まったとも言われている。ペダル・スティールを演奏しているのはグレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアだ。
Carry On
名盤2nd『デジャ・ヴ』のオープニング・トラックで、スティーヴン・スティルス作。
美しくも力強いアコギの響き、信じられないぐらい息の合ったコーラス、カッコいいエレキギター。
1曲目を聴いただけで「こりゃきっと名盤だ」と感じるアルバムがあるものだけれど、これも「こりゃ物凄い完成度のアルバムにちがいない」と度肝を抜かれるような幕開けだ。
Suite: Judy Blue Eyes
1st『クロスビー、スティルス&ナッシュ』からのシングル。スティーヴン・スティルスの作で、全米21位。
初めてこれを聴いたとき、3人の声のシンクロの凄さに本当に驚いたものだった。技術的な高さはもちろん、声の質もたまたまぴったりの相性なのだろう、
これほど美しく透んだコーラスも滅多に無いし、アコースティック主体のやわらかいサウンドがこれまたよく合う。わたしの大好物の、なめ茸と大根おろしぐらいよく合う。
Ohio
1970年の5月4日、米国オハイオ州のケント州立大学において、ベトナム戦争に反対する学生たちのデモ集会に対して州兵が発砲し、4人が死亡、9名が負傷した。
ニール・ヤングはこの事件に憤り、一晩で曲を書き上げ、クロスビー、スティルス&ナッシュとレコーディングし、わずか10日後にはシングル・レコードとして店頭に並んだという。
怒りに燃えるニールの形相が目に浮かぶような、熱く激しい演奏だ。
Woodstock
2nd『デジャ・ヴ』からのシングルで、全米11位のヒットとなった。
ジョニ・ミッチェル作で、CSN&Yは出演したが彼女自身は出演できなかったウッドストック・フェスティヴァルという歴史に残るエポック・メイキングな出来事への熱い想いを綴った曲。アルバム屈指のロック・サウンドが聴ける名曲だ。
helpless
2nd『デジャ・ヴ』収録曲。ニール・ヤングの作であり、彼の代表曲のひとつとして数えられる名曲だ。
曲はシンプルそのもの、DとAとGのコードを繰り返しているだけの単純な曲なのに、1度聴いたら忘れられない感動的な曲だ。
当時の学生運動をテーマにした映画『いちご白書』で、大学に籠城した学生たちが疲れきって子供に還ったような表情で雑魚寝している映像にこの曲が流れるシーンは、映画の最も印象的なシーンだった。
入門用にCSN&Yのアルバムを最初に聴くなら、2nd『デジャ・ヴ』がやっぱりお薦め。ベスト盤がいいという人には74年リリースのベスト盤『ソー・ファー 華麗なる栄光の道』も悪くない。
(by goro)