ザ・クランベリーズは、1992年にシングル「ドリームス」でデビューした、アイルランド出身のバンドだ。
ちょうど90年代ロック・ムーヴメントの真っただ中で、その上質なポップ・センスと、必要に応じてラウドにもメロウにもなれるバンド・サウンドは、当時のシーンにぴったりのバンドだった。
そして、そのうえで彼らを頭ひとつ抜けた個性的な存在にしたのは、女性ヴォーカル、ドロレス・オリオーダンの、特別な声だった。
彼女の声は近代音楽の平均律からはみだすほどに野性的で、力強く、美しいが、あまりに強烈すぎて、幻のようでもある。
デビュー・シングル「ドリームス」がいきなり世界的な注目を浴びると、その後もヒットを連発したが、人気絶頂の1996年には、忙しすぎたあまり、過労のドロレスにドクター・ストップがかかり、2年間の活動休止となった。
その後は活動再開と休止を繰り返しながらマイペースに活動したが、2018年1月、ドロレスは宿泊先のホテルで泥酔し、浴室で溺死しているのが発見された。まだ46歳の、あまりに早すぎる死だった。
以下は、わたしが愛するザ・クランベリーズの至極の名曲ベスト5です。
Dreams
クランベリーズのデビュー・シングルで、日本では最も広く知られた曲だ。
ウォン・カーウァイ監督の香港映画『恋する惑星』の主題歌として、主演のフェイ・ウォンが「夢中人」としてカバーし、また、日本では松嶋菜々子が出演したキリンの生茶のCMにも使用された。
後のクランベリーズのような毒や激しさはなく、そのタイトル通り、浮遊感のあるドリーミーな曲だ。
Salvation
3rdアルバム『トゥ・ザ・フェイスフル・ディパーテッド – 追憶と旅立ち(To the Faithful Departed)』からのシングルで、全英13位、米オルタナ・チャート1位。
最初から最後まで一瞬たりとも歌うのをやめないドロレスのドSキャラが炸裂したような、疾走感のあるハードな曲だ。
鞭で引っぱたかれるような、ピシッ、ピシッという音がまたゾクゾクさせる。
Just My Imagination
4thアルバム『ベリー・ザ・ハチェット(Bury the Hatchet)』からのシングル。
夢見る少女のようだったり、SMの女王様のようだったり、革命戦士のようだったりと、変幻自在の声を持つドロレスが、素に戻って地元の親友に語り掛けるような楽し気な声で歌う、明るい曲調の歌。
こんな肩の力が抜けたドロレスの声もまた、素晴らしく魅力的だ。
Linger
彼らの2ndシングルで、全英14位、米オルタナ・チャート4位と、アメリカでも知られるきっかけとなった曲。
結成前、ヴォーカリストを探していたクランベリーズに、友人の紹介でドロレスがオーディションを受け、まだ歌詞のない曲に詞をつけてみてくれと頼まれ、一晩で書いたのがこの「リンガー」だった。
Zombie
2ndアルバム『ノー・ニード・トゥ・アーギュ(No Need to Argue)』からのシングルで、全英14位、米オルタナ・チャート1位となった、彼らの代表曲。
北アイルランド戦争を題材にした、美しくも激烈な曲。
ドロレスの、唸りをあげる激しいヴォーカルが凄まじい。
入門用にザ・クランベリーズのアルバムを最初に聴くなら、『スターズ:ザ・ベスト・オブ・クランベリーズ 1992-2002』がお薦めだ。最初に聴くべき代表曲はすべて網羅されている。
(Goro)