シンディ・ローパーが1983年にド派手な原色の衣装とヘリウムガスを吸ったような声の、オシャレなのかカワイイのかおバカなのかわからないような強烈なキャラクターでデビューしたとき、実はすでに彼女は30歳だった。
ニューヨークのブルックリンに住み、職を転々としながら、一度バンドでデビューした経験もあったもののそれが失敗に終わり、借金を抱えて自己破産したという経歴の持ち主でもあった。
しかし彼女はMTV時代の幕開けという波にも乗り、ソロ・デビューと同時に爆発的に売れ、同時期にデビューしたマドンナと並ぶ、時代を象徴するポップ・アイコンとなった。
当時の日本ではマドンナよりも幅広い層から人気があった印象だったけれども、シンディ自身もニューヨークの日本人が経営するジャパニーズ・レストランでバイトしていた経験などもあり、大の親日家で、ライブ・ツアーではもちろん、プライベートでもたびたび訪れている。1990年の大晦日には中継ではなくわざわざ来日して紅白歌合戦にも出場した。最近でもバラエティ番組に出たり、そんなときは簡単な日本語を喋ったりもしている。
実のところシンディは、80年代以降のアメリカではレコード・セールスが不調で人気も衰え、1994年に発売された初めてのベスト・アルバムも全米81位と振るわなかったが、日本ではオリコン5位と衰えない人気を見せつけていた。
2011年にライブ・ツアーのために来日したときは3月11日という、あの東日本大震災の日に到着した。
多くのイベントが中止に追い込まれ、海外アーティストが帰国する中、シンディのツアーは予定通り行われ、節電のために最小限の照明を使い、公演後はシンディ自ら募金箱を持って立ち、震災の募金を募ったという。またCNNなどのインタビューを通じて、世界へ向けて支援や募金を呼び掛けた。その後も2012年、2013年、2015年、2019年と頻繁に来日し、公演を行っている。
そんな、日本を愛し、日本に愛されたシンディ・ローパーの、至極の名曲ベストテンです。
Change of Heart
2ndアルバム『トゥルー・カラーズ(True Colors)』からのシングルで、全米3位のヒットとなった。景気のいい電子音と大げさにドラムが炸裂する典型的な80年代サウンドだ。PVはロンドンでゲリラ・ライヴ風に撮影されている。
Who Let In the Rain
4thアルバム『ハットフル・オブ・スターズ(Hat Full of Stars)』からのシングル。全英32位、全米チャート入りはならなかった。
アルバムも全米112位とセールス的には大敗したが、シンディの優しい素の声が聴こえるような、良い曲だ。
Sisters of Avalon
5thアルバム『シスターズ・オブ・アヴァロン(Sisters of Avalon)』は全米188位と本国ではまったく売れなかったが、このタイトル曲は日本でのみシングルとしてリリースされた。
不穏なグルーヴがカッコいい、途中でシンディの激しい絶叫も聴けるダンス・チューンだ。
PVではデビュー時から変わらない、スカートの裾をつまんでクルクルと踊るシンディを見ることができる。
The Goonies ‘R’ Good Enough
1985年に公開されたスピルバーグ製作の、少年たちを主人公にしたアドベンチャー映画『グーニーズ』の主題歌として使用された曲。全米10位のヒットとなった。
今聴くと心配になるぐらい薄っぺらくて安っぽいサウンドだけど、当時は日本でも人気の高かった曲だ。
All Through the Night
シンガー・ソングライター、ジュールス・シアーが1983年に発表した曲のカバー。
名盤1st『シーズ・ソー・アンユージュアル(She’s So Unusual)』からの4枚目のシングルとしてリリースされ、全米5位とこれも大ヒットした。
She Bop
1st『シーズ・ソー・アンユージュアル』からのシングルで、「夜中にゲイ雑誌を見ながらマスターベーションをする」という女性を描いた過激な歌詞も話題を呼び、全米3位のヒットとなった。「女の子だって楽しみたい!」というシンディの初期のテーマは新しい時代の女性像として世界中で共感された。
Money Changes Everything
1st『シーズ・ソー・アンユージュアル』のオープニング・トラック。「お金はすべてを変えてしまう」と、金の切れ目は縁の切れ目的なシビアなラヴソングで、1980年にリリースされたアメリカのニュー・ウェイヴ・バンド、ザ・ブレインズのカバーだ。
バンド・サウンドとシンセが良い具合に融合したポップなイントロの響きは、新時代のポップスの幕開けを感じさせたものだった。
True Colors
2nd『トゥルー・カラーズ』のタイトル曲で、全米1位の大ヒットとなった。
「カラーズ」とは十人十色の「色」すなわち個性のことで、人にはそれぞれ美しい「真実の色」があると歌う歌。要は人間の多様性の尊重を歌う、シンディらしいバラードだ。
Time After Time
シンディの2ndシングルで初の全米1位に輝いたラヴ・バラード。ポップス歌手だけでなく、ジャズ・シンガーなど、ジャンルの垣根を超え、多くのアーティストがカバーしてスタンダードとなった名曲だ。
タイトルは「何度でも何度でも」という意味だそうだが、現状に満足できずに自分と環境を変えたい女性と、そんな彼女についていけない男性の話だ。
Girls Just Want to Have Fun
シンディのデビュー・シングルで全米2位の大ヒットとなった、彼女の代名詞ともなっている代表曲。当時の邦題は「ハイスクールはダンステリア」だった。
「女の子も楽しみたいだけ!」と歌って女子からも男子からも支持され、シンディが30歳にしてついにアメリカン・ドリームを掴んだ瞬間だった。
入門用にシンディ・ローパーのアルバムを最初に聴くなら『究極ベスト』がお薦め。ここで選んだ10曲もすべて収録されています。
(by goro)