デビュー以来、ストーンズがカバーしてきた楽曲の、そのオリジナルを発掘するこのシリーズのラストは、2016年にストーンズがリリースしたブルースのカバー・アルバム『ブルー&ロンサム』の全曲だ。
もともとカバー・アルバムを作るつもりでスタジオに入ったわけではなかったそうだが、古いヴィンテージの機材が揃ったスタジオで音を試すためにまず演ってみたのが「ブルー&ロンサム」であり、興が乗ったミックが「ハウリン・ウルフを演ろう」と言い出し、さらにストーンズ結成当時にクラブで演奏していたブルース・ナンバーを思い出しながら次々と演奏していったと言う。それを三日間続けて生まれたのがこのアルバムであり、まさにストーンズの生々しい原点を垣間見ることのできるアルバムであると言えるだろう。
ミックが愛してやまないリトル・ウォルターが4曲も入っていたり、広く知られたナンバーがほとんど入っていないなど、セールスのことなどきっと何も考えず、ただただ衝動的に、情熱的に選ばれた、ストーンズにとっての偏愛的名曲集と言える12曲を、以下に紹介しよう。
ジャスト・ユア・フール (1962)
LITTLE WALTER – Just Your Fool
1953年にバディ・ジョンソン&ヒズ・オーケストラによって書かれたビッグ・バンド・スタイルのジャンプ・ブルースを、リトル・ウォルター (1930-68) がシカゴ・ブルース・スタイルにアレンジして録音したもの。ストーンズ版はアルバムからシングル・カットもされた。
コミット・ア・クライム (1979)
HOWLIN’ WOLF – Commit A Crime
マディ・ウォーターズと並んでシカゴ・ブルースの二大巨頭として知られる、ハウリン・ウルフ (1910- 76) が1966年に録音したもののお蔵入りになり、彼の死後、1979年に発売された未発表レアトラック集『キャント・プット・ミー・アウト』に収録された曲。なぜお蔵入りなのか理解できないほど、ヒューバート・サムリンのギターがシビれる、カッコいい曲だ。いいところに目をつけたなあ、ミック。
ブルー・アンド・ロンサム (1965)
LITTLE WALTER – Blue And Lonesome
原曲はメンフィス・スリム (1915-88) が1949年に録音して、ヒットした彼の代表曲。
リトル・ウォルターは彼の最後のシングル、1965年発売の「Mean Ole Frisco」のB面に収録した。ストーンズがカバーしたのは、このリトル・ウォルター版だ。
オール・オブ・ユア・ラヴ (1957)
MAGIC SAM BLUES BAND – All Of Your Love
ミシシッピ州出身でシカゴで活動したマジック・サム (1937-69) が1957年に最初にリリースしたシングル。
1968年に発表した彼の代表作として知られる名盤『ウエスト・サイド・ソウル』でも再録音された人気曲だ。ストーンズがマジック・サムをカバーするのはめずらしい。
アイ・ガット・トゥ・ゴー (1955)
LITTLE WALTER – I Got To Go
マディ・ウォーターズ・バンドのブルース・ハーピストとして注目を集め、ソロとしても成功したリトル・ウォルターが1955年にリリースしたシングル「ローラーコースター」のB面に収録された曲。ミック・ジャガーは無類のリトル・ウォルター好きで、ブルース・ハープはもちろん、歌い方まで影響を受けている。
エヴリバディ・ノウズ・アバウト・マイ・グッド・シング (1971)
LITTLE JOHNNY TAYLOR – Everybody Knows About My Good Thing (Pt.1)
アーカンソー州出身のリトル・ジョニー・テイラー (1943-2002) が1971年にシングルとして発表し、米R&Bチャート6位のヒットとなった代表曲。同郷のブルースマン、ジョニー・テイラーとは別人。
ライド・エム・オン・ダウン (1956)
EDDIE TAYLOR – Ride ‘Em On Down
ミシシッピ州出身のエディ・テイラー (1923-85) はシカゴで活動し、主にジミー・リードのバック・ギタリストとして知られた存在だった。
この曲は1956年に彼自身が書き、シングルとしてリリースしたが、彼のすべてのソロ・レコードと同様に、商業的成功は得られなかった。
ヘイト・トゥ・シー・ユー・ゴー (1955)
LITTLE WALTER – Hate To See You Go
リトル・ウォルターの死後に発表された、凶暴な顔の大アップジャケットで知られる彼の2枚目のアルバムのタイトルにもなっている曲。
同じチェス・レコードのボ・ディドリーが書いてきた曲を気に入り、自分で歌詞を付けてシングルとしてリリースしたものだ。
フー・ドゥー・ブルース (1957)
LIGHTNIN’ SLIM – Hoo Doo Blues
米ミズーリ州セントルイス出身で、ルイジアナやデトロイトで活動したシンガー兼ギタリスト、ライトニン・スリム (1913-74) が1957年にリリースしたシングル。
リトル・レイン (1957)
JIMMY REED – Little Rain
ミシシッピ州出身でシカゴで活動したジミー・リード (1925-76) が1957年に発表したシングル。米R&Bチャートで7位となるヒットを記録している。
初期のストーンズはジミー・リードのカバーも多く、彼のサウンドに大きな影響を受けたと認めている。
ジャスト・ライク・アイ・トリート・ユー (1962)
HOWLIN’ WOLF – Just Like I Treat You
ハウリン・ウルフが1962年に発表したシングル曲。ギターがヒューバート・サムリン、ベースがウィリー・ディクソンの鉄壁の布陣だ。
アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー (1956)
OTIS RUSH – I Can’t Quit You Baby
シカゴ・ブルースの名ギタリスト、オーティス・ラッシュ (1935-2018) のデビュー・シングル。ウィリー・ディクソンが彼のために書いた曲で、全米6位の大ヒットとなった代表曲。さすがにギターはいい音している。
以上、12曲でした。
曲がマイナーすぎて、情報が少ないのが申し訳ないが、それにしても良い曲ばかりで、あらためてブルースにどっぷり浸かり、ブルースと共に生きてきた、ストーンズのメンバーたちの見識の高さやクールなセンス、そしてブルースへの愛情の深さを再認識した思いだった。
ミックは『ブルー&ロンサム』用のインタビューで「おれたちはブルースを広める運動をしてきた。結局50年経った今でもやってるわけだ」と語っていたけれども、まさにわれわれはストーンズのおかげで、すべてのロックの源流である、素晴らしきブルースの世界を知ることができたのだと思う。
ストーンズにはどれだけ感謝しても足りないほどだ。
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(Goro)