Pink Floyd
Comfortably Numb (1979)
全世界で5千万枚を売った大ヒット作『ザ・ウォール(The Wall)』の収録曲で、ロジャー・ウォーターズとデヴィッド・ギルモアのツイン・ヴォーカルによる美しい歌と、ギルモアの凄絶なギター・ソロが炸裂する名曲だ。わたしはこのアルバムではこの曲がいちばん好きだ。
わたしがもう四十も過ぎた頃、それまでほとんど好きになれたことがなかった「プログレッシヴ・ロック」の、一般的には代表格であるとされているピンク・フロイドを好きになったのは、聴いてみたら「ん? プログレじゃなくて、ギター・ロックじゃん」と思ったときからである。
たしかに初期の「原子心母」のような、プログレとしか言いようのない大作もあるけれども、あれはなんとなく、若気の至りのような気がする。愛嬌があるから好きだけれども。
その後の『狂気』などを聴けば彼らが最高のギター・ロック・バンドであることがわかるし、わたしはデヴィッド・ギルモアのあの怒りっぽい肉体労働者のオヤじみたいなヴォーカルと、耳をつんざく叫びから心に沁みる優しいメロディまで、変幻自在なギター・プレイが大好きだ。ずっと聴いていられる。
ピンク・フロイドはベースのロジャー・ウォーターズがバンドを仕切り、ほぼすべての歌詞を書き、作曲も大半はウォーターズで、一部でギルモアや他のメンバーが手伝っているぐらいのものだった。
ウォーターズが言うには、ピンク・フロイドは彼が設計図を描く建築家で、ギルモアがそれを音にする音楽家なのだそうだ。
あるときには「一切楽器を使わずにアルバムを作ろう」としたほど(途中で断念したが)野心旺盛なロジャー・ウォーターズに対して、デヴィッド・ギルモアは「自分たちのサウンドがプログレッシヴだとは思っていない。他人が聴いてわけのわからないものはやらない。音楽的視野を広げようと思ってるが、実力以上のことをやろうとは思わない」と語るように、音楽に対して誠実で謙虚な男だ。それはあのギター・プレイからもわかるけれども。
もちろん、ロジャー・ウォーターズがいなければピンク・フロイドの全盛期の名作群は生まれなかっただろう。
でも、ギルモアがいなかったらわたしはピンク・フロイドのファンにはなっていなかっただろうなとも思う。
そんな水と油みたいな2人が起こす化学反応と緊張感こそが、異次元のものを生み出すロック・バンドの正しい在り方なのかもしれない。
(Goro)