ザ・ゾンビーズ『オデッセイ・アンド・オラクル』(1968)【わたしが選ぶ!最強ロック名盤500】#123

Odessey & Oracle

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【わたしが選ぶ!最強ロック名盤500】#123
The Zombies
“Odessey and Oracle” (1968)

惜しい。

実に惜しいのである。

才能あふれるソングライターでもあるキーボード奏者、ロッド・アージェントを中心に、メランコリックな歌声が魅力的なコリン・ブランストーン、もうひとりのソングライターでもあるベースのクリス・ホワイト、そして素晴らしいコーラスができるメンバーが集まったにもかかわらず、ゾンビーズは、どういうわけかうまく歯車が噛み合わないまま、ロックシーンから早々と消えてしまった。

1964年のデビュー・シングル「シーズ・ノット・ゼア」がいきなり全米2位の大ヒットとなり、3枚目のシングル「テル・ハー・ノー」も全米6位とヒットが続いたにもかかわらず、彼らの本国イギリスでは前者が全英12位、後者が全英42位と、なぜかあまりパッとしなかったのである。

その後はヒットも途絶え、デッカ・レコードとの契約も打ち切られてしまった。

そのまま解散してもおかしくなかったが、彼らは最後に自分たちの納得のいくアルバムを作ろうと自費で資金調達し、CBSと契約が決まると1967年の6月に本作の制作を開始した。

しかしアルバムの制作中、特にヴォーカルのコリンとギターのポールは先の見通しを不安視し、バンド内の士気は下がり、人間関係が悪化していった。

きっとソングライターのロッドとクリスには「すげぇアルバムができる!」という確信があったに違いない。アルバムが完成さえすれば明るい未来が待っているに違いないと考え、士気の低いメンバーたちの尻を叩いて、なんとか完成にこぎつけたのだろう。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 独房44
2 エミリーにバラを
3 彼去りし後には
4 ビーチウッド・パーク
5 ローソクの様に
6 夢やぶれて

SIDE B

1 変革
2 私と彼女は
3 今日からスタート
4 ブッチャーズ・テイル
5 フレンズ・オブ・マイン
6 ふたりのシーズン

冒頭から、ツカミとしては最高のA1「独房44」から始まり、最後は60年代英国ロックを代表する名曲のひとつとなったB6「ふたりのシーズン」で幕を閉じる。その間のおよそ30分間は、よく練られた独創的なメロディと、驚くべきハーモニーと、優美なサウンドの、奇跡のような時間に浸ることができる。

まるで、”『ペット・サウンズ』への英国からの回答”といった趣の作品である。あの異次元の傑作に対抗できる、数少ない英国産コンセプト・アルバムの傑作のひとつだ。

ジャケットのアートワークはいかにもサイケデリック・ロックという感じだが、確かにメロトロンを使うなど近い要素もあるにはあるけれども、LSDによる酩酊や幻想の世界とは無縁な、最初から最後まで覚醒した、真摯な音楽の世界である。

しかし、レコーディングが山場を迎えた「ふたりのシーズン」の録音中、もともとこの曲に気乗りがしなかったヴォーカリストのコリンは、作者のロッドによる歌い方の指示に我慢が限界に達し、怒りを爆発させた。そしてバンド内の空気が最悪の状態のまま、レコーディングは終わりを迎えた。

アルバムに先行してリリースされた「フレンズ・オブ・マイン」と「独房44」の2枚のシングルもまったく売れなかった。ライヴのオファーも減り、そしてついに1967年12月、バンドは最後のライヴを終えると、解散した。

本作はバンドが解散して4ヶ月後、1968年4月にイギリスでリリースされた。

先行シングルの不発で、CBSはアメリカでのリリースを中止するつもりだったが、当時CBSの社員だったアル・クーパーがロンドンを旅行中に本作を聴いて気に入り、彼の薦めでイギリスより2ヶ月遅れの6月に、アメリカでもリリースされることになった。

アルバムは案の定売れなかったが、アル・クーパーはさらに「ふたりのシーズン」のシングル・カットを強く推し、1969年3月にリリースされると、全米チャート3位になったのを皮切りに、世界的な大ヒットとなった。

しかしすでにそのとき、バンドは解散して1年以上も経っていたのである。

ゾンビーズは素晴らしい才能と実力を備え、ロック史に残る傑作をものにしたにも関わらず、成功を掴むことができなかった。解散のタイミングも悪かった。ゾンビのように復活もしなかった。

惜しい。

実に惜しいのである。

↓ アルバム冒頭を飾る「独房44」。

The Zombies – Care Of Cell 44 (Lyric Video)

↓ 世界的ヒットとなったゾンビーズの代表曲「ふたりのシーズン」。

The Zombies – Time Of The Season (Lyric Video)

(Goro)