『メイン・ストリートのならず者』(1972)
The Rolling Stones
ファンや評論家が「ストーンズの最高傑作」として挙げるアルバムは大抵4タイトルに絞られる。『べガーズ・バンケット』『レット・イット・ブリード』『スティッキー・フィンガーズ』、そしてこの『メイン・ストリートのならず者』だ。
4タイトルすべてがジミー・ミラーのプロデュースという共通点はあるものの、サウンドや性格はそれぞれ異なっている。中でも本作は、ストーンズでは唯一の2枚組スタジオ・アルバムということもあり、一風変わった曲やディープな曲も収録し、ストーンズのアルバムの中でも特にマニア受けするものとなっている。逆の言い方をすれば、やや一般受けしにくいものとなっている。
曲を半分に削ってキャッチーなのだけを残して完成度を高めれば『スティッキー・フィンガーズ』みたいなアルバムがもうひとつ作れたかもしれないが、あえてそれをしないで、ラフな演奏や地味な楽曲もしっかり残したことに意義があった。
このあえてゴチャついたところが魅力の本作は、聴けば聴くほど面白くなったし、その無骨さと生々しさによって最もストーンズらしいアルバムとも言えるだろう。
SIDE A
1. ロックス・オフ – Rocks Off
2. リップ・ジス・ジョイント – Rip This Joint
3. シェイク・ユア・ヒップス – Shake Your Hips (スリム・ハーポのカバー)
4. カジノ・ブギー – Casino Boogie
5. ダイスをころがせ – Tumbling Dice
SIDE B
1. スウィート・ヴァージニア – Sweet Virginia
2. トーン・アンド・フレイド – Torn and Frayed
3. 黒いエンジェル – Sweet Black Angel
4. ラヴィング・カップ – Loving Cup
SIDE C
1. ハッピー – Happy
2. タード・オン・ザ・ラン – Turd on the Run
3. ヴェンチレイター・ブルース – Ventilator Blues
4. 彼に会いたい – I Just Want to See His Face
5. レット・イット・ルース – Let It Loose
SIDE D
1. オール・ダウン・ザ・ライン – All Down the Line
2. ストップ・ブレーキング・ダウン – Stop Breaking Down」(ロバート・ジョンソンのカバー
3. ライトを照らせ – Shine a Light
4. ソウル・サヴァイヴァー – Soul Survivor
本作からのシングルカットは「ダイスをころがせ/黒いエンジェル」と、米国のみの「ハッピー/オール・ダウン・ザ・ライン」の2種で、前者は全英5位、全米7位、後者は全米14位のヒットとなった。
スワンプ・ロック風の「ダイスをころがせ」はその後ライヴの定番となる人気曲となったし、「ハッピー」はキースがリードヴォーカルを取った曲の中で最もよく知られるものとなった。
1枚目のレコードに針を落とすと、キースのゴツゴツとした荒っぽいギターのイントロが鳴り、ミックのいま起きたみたいな「イェ~」というダルそうな合図で始まる「ロックス・オフ」を聴いただけで、もういつでもこのアルバムのクールな世界に入っていける。
ストーンズの楽曲の中で最も速く、それゆえミックが歌うのを嫌がっていたという「リップ・ジス・ジョイント」はパンク・ロックみたいだし、カントリー風の「スウィート・ヴァージニア」は実のところ、わたしがこのアルバムで一番好きな曲だ。同じくカントリーの香りが漂う「トーン・アンド・フレイド」もいい。
ブリティッシュ・ロックらしい美メロを用いながらも、アメリカ南部の匂いがじんわりと香る、ストーンズ流スワンプ・ロックの傑作は「ラヴィング・カップ」だ。
キースの5弦ギターがテンション高く鳴り渡るカッコいいイントロから始まる「オール・ダウン・ザ・ライン」はまさにならず者たちにピッタリのホンキートンク・ロックンロールであり、2008年公開のストーンズの映画のタイトルにもなった「ライトを照らせ」も胸熱の名曲だ。
2枚組のアルバムは売れないという周囲の心配を覆し、本作も前作に続いて全米1位、全英1位の大ヒットとなり、日本でもオリコン7位まで上昇した。
2010年にはデラックス・エディション盤が発売され、10曲の未発表曲&アウトテイクが収録された。
そもそもなんでもありの印象のアルバムなので、LPレコードの溝にもう少し余裕があれば入れちゃっても全然よかったような未発表曲もあり、中でも「フォローイング・ザ・リヴァー」はストーンズらしからぬ壮大さで印象深い楽曲だ。
(Goro)