Sex Pistols
Anarchy In The U.K (1976)
もしこの曲がなかったら、ロックの歴史はずいぶん違うものになっていたかもしれない、と思わせる曲はいくつかあるけれども、この曲も間違いなくそうだ。
この曲が無ければ、もしもセックス・ピストルズが登場しなければ、もしかするとロックはもっと大人向けの複雑でマニアックな音楽へと進化 (退化?)していき、ロックを聴く人なんてジャズやクラシックのファンみたいに少数派になっていたかもしれない。
なんてことまで想像したくなるほど、ロンドン・パンクの発火点となったこの曲が与えた影響は大きい。
わたしはパンク・ロックというのは、一大産業化してでっかく膨らんだ「ロック」に、安全ピンの針をプスッと突き立ててBANG!とパンクさせた、パンク魔のようなものだと思っている。
それは音楽業界だけにとどまらず、ファッションからサブカルチャーからアートまで、いろんな風船を同時に破裂させるほどの影響力を持っていた。
おれは反キリスト おれはアナーキストだ
欲しいものは手に入れる そしてなにもかもぶち壊す
おれはアナーキストになりたいんだ
(written by Paul Cook, Steve Jones, John Lydon, Glen Matlock)
平均年齢20才の彼らが真剣だったのかふざけていたのかはよくわからない。
しかしそこには理想的にラウドなギターが鳴り渡り、ポップアートのような美しさと、マンガのようなユーモアと、そしてなにものにも勝るカッコ良さがあり、パンク・ロックのシンボルとして圧倒的な光を放った。
シングル「アナーキー・イン・ザ・U.K.」は1976年11月26日にEMIからリリースされた。
小学生だったわたしは遠く英国でそんな怪物が生まれたことなど知る由もなかったが、それから10年が経ち、パンク・ムーヴメントがすでに過去のものとなり、MTVが音楽シーンを支配していた頃にわたしはこの曲を初めて聴き、衝撃を受けた。セックス・ピストルズの音楽には、わたしがロックに求めていた、すべてが揃っていた。
これはたった二十歳の怖いもの知らずのクソガキたちが、知ったふうな顔の大人たちをビビらせ、ひっくり返してしまった、ロック史に刻み込まれた痛快極まる事件であり、永久に輝きを失わない奇跡である。
(Goro)