ボブ・ディラン/時代は変わる (1964)【’60s Rock Masterpiece】

Times They Are A-Changin

【60年代ロックの名曲】
Bob Dylan
The Times They Are A-Changin’ (1964)

1964年2月にリリースされたボブ・ディランの3rdアルバム『時代は変わる』のタイトル曲だ。初期の弾き語り時代のディランの曲では「風に吹かれて」と並んで有名な曲である。

国中のおとうさん、おかあさん
わからないことは批評しなさんな
息子や娘たちは あんたの手に負えないんだ
昔のやりかたは急速に消えつつある
新しいものをじゃましないでほしい
助けることが出来なくていい
とにかく時代は変わりつつある
(written by Bob Dylan 訳詞:片桐ユズル)

わたしはこの曲の、なんだか自信に満ち溢れたようなメロディと歌声が好きだ。

今まさに時代を変えている真っ最中のシンガーによる「時代は変わる」という確信に満ちたメッセージは説得力もあっただろうし、同世代の若者たちは自分の思いを代弁するディランに圧倒的な共感を覚えたに違いない。彼の声が国中のラジオから流れ、新しい時代がやってきている興奮に包まれながら聴いたに違いない。

しかしこの歌の歌詞は、あの時代の若者だけではなく、いつの時代の若者も共感できる、普遍的なものだ。

若い頃のわたしもやはり同じことを思っていたし、現在の若者もきっと同じ思いだろう。わたしの元から遠く離れた都会のアパートで、夜更けの今頃はきっとベッドに寝転がりながら、コードレスイヤホンを着けてスマホをいじっているわたしの娘もきっと同じだろう。わたしは彼女の邪魔をしない。彼女の好みや考えや生き方を批評しない。もちろん、いざというときには助けるけれども。なんならわたしはこの先、わたしの人生の主役の座を降りて、彼女の人生の脇役として生きてもかまわないと思っている。

そして年をとれば、次は娘がわたしの立場になる。世代は順番に交代し、人々の考えや社会は変化し、時代は変わり続けているけれども、結局いつの時代も人はみんな同じ思いを抱え、似たような経験をして生きていくだけとも言える。

ボブ・ディランは、アメリカで誕生したロックンロールという音楽を単なる陽気でにぎやかなダンス・ミュージックに終わらせず、問題意識やメッセージの発信、あるいは文学的な表現の可能性を切り拓いた。
それによってロックは音楽の枠を超えて新たな文化として確立し、若者たちの意識や価値観、生き方に大きく影響を及ぼしたのだ。

その意味で実際のところボブ・ディランは、時代を変えちゃったことに間違いはない。

それはそうとして。
ただ、なあ。
実際のところ1980年代ぐらいまでは、何もかもが未来へ向かってすごい勢いで進歩して変化しているように思えたけれども、今はもうどん詰まりに突き当たって、どっちへ進むべきか誰もがわからなくなって、右往左往してるだけのように思えてしまうのよねえ。

それでも時代は変わるだろうか。

Bob Dylan – The Times They Are A-Changin' (Official Audio)

(Goro)