28年間お蔵入りとなっていた問題作は何がダメだったのか【ストーンズの60年を聴き倒す】#29

Rock & Roll Circus [12 inch Analog]

『ロックンロール・サーカス』(1996)

“Rock and Roll Circus”(1996)
The Rolling Stones

『ロックンロール・サーカス』とは、『べガーズ・バンケット』のプロモーションを兼ねたTV用の音楽ライヴショーとしてストーンズが企画・製作した特別番組で、「ロックンロールとサーカスの融合」をコンセプトに、豪華ゲストを集めて制作された映像作品だ。MCもストーンズのメンバーが務め、1968年12月10日〜12日にかけて撮影された。

しかし、撮影は完了したにも関わらず、結局お蔵入りとなり、幻の作品となった。

お蔵入りとなった理由は明らかにされていないが、ミック・ジャガーがストーンズのライヴ部分の出来に満足がいかず、撮り直しを希望していたこと、版権を持つ元マネージャー、アラン・クレインとストーンズの関係が悪化し、こじれたためなどと推測されている。

そして完成から実に28年後の1996年に、今回紹介するサウンドトラックCDとVHSビデオがリリースされた。収録曲は以下の通り。

 1. ジェスロ・タル/ジェフリーへささげし歌
 2. ザ・フー/クイック・ワン
 3. タジ・マハール/エイント・ザット・ア・ロット・オブ・ラヴ
 4. マリアンヌ・フェイスフル/サムシング・ベター
 5. ザ・ダーティー・マック/ヤー・ブルース
 6. オノ・ヨーコ&イヴリー・ギトリスwithザ・ダーティー・マック/ホール・ロッタ・ヨーコ

以下は、ザ・ローリング・ストーンズ

 7. ジャンピン・ジャック・フラッシュ
 8. パラシュート・ウーマン
 9. ノー・エクスペクテーションズ
10. 無情の世界
11. 悪魔を憐れむ歌
12. 地の塩

5曲目の”ザ・ダーティー・マック”とは、ジョン・レノン、エリック・クラプトン、ミッチ・ミッチェル、キース・リチャーズの4人によって結成された一夜限りのグループだ。

The Dirty Mac – Yer Blues (Official Video) [4K]

豪華な共演もあれば、貴重な音源もあるけれども、音楽的に充実したアルバムかというと、それほどお薦めする気にはなれない。

ゲストの演奏はザ・フーがかろうじて興味を惹かれるものの、あとはたいして面白くもない。

ミックの恋人さんが歌うのもゴリ押し感が強いし、豪華なバンドを従えながらレノンの恋人さんがアーアーアーと奇声を発しているだけの聴くに耐えないようなトラックもある。
クラシック・ピアニストのジュリアス・カッチェンも出演して、ファリャやモーツァルトを弾いているが、全カットされている。

ゲスト陣に比べるとストーンズの演奏は割と聴きごたえはある。「パラシュート・ウーマン」のような他のライヴ・アルバムに入っていない楽曲の貴重なライヴ・パフォーマンスが見られるのは嬉しい。

The Rolling Stones – Parachute Woman (Official Video) [4K]

「悪魔を憐れむ歌」は、この時が初めて披露されたライヴ演奏であり、数あるライヴバージョンの中でも最も原曲に近いアレンジになっていて、この曲のベストライヴ・バージョンに挙げてもいいぐらいだ。ミックもボディペイントを仕込んだりしてだいぶ頑張っているので、これはぜひ映像で見ることをお薦めする。

The Rolling Stones – Sympathy For The Devil (Official Video) [4K]

エンディングの「地の塩」は、映像を見る限り演奏していないので、どうやらバックの演奏はカラオケらしい。そのせいか、唐突に終わるのにびっくりさせられる。「ノー・エクスペクテーションズ」はミックがたぶん失敗してる。このあたりを撮り直したかったのかもしれない(勝手な想像)。

見応えのあるパフォーマンスもわずかにあるものの、28年間もお蔵入りになったのは、トータルで言えば「失敗作」と判断したからではなかったかとわたしは思う。撮り直そうかどうしようか考えているうちに、版権を持つアラン・クレインとの関係がこじれにこじれて、公開の目処も立たなくなったのではないか(勝手な想像)。

この作品にはブライアン・ジョーンズが映っている。心身ともにかなり弱っていたはずの時期だ。目立ったパフォーマンスはしていないものの、この頃はまったく弾かなくなっていたギターを持って撮影に参加していることになんだかちょっと、泣けてくるような気持ちになる。

ブライアンは、この撮影の半年後にストーンズを解雇された。
そしてさらに1ヶ月後、自宅のプールで溺死した。27歳だった。
ここに映っている姿が、彼の最後の映像となった。

(Goro)