テレヴィジョンは1973年にニューヨークで結成、77年にレコード・デビューした、ドアーズやヴェルヴェット・アンダーグラウンドに通じる、文学的な歌詞とダークな世界観を持つ、アート志向のロック・バンドだった。
美しいとも気持ち悪いとも言えるトム・ヴァーレイン(頭文字はT.V.だ)のひきつったような独特なハイ・トーン・ヴォイス、どこか現実感のない夢幻と官能の響きがする2本のギター、薄暗い地下室のように冷たく淀んだ空気感、でもどこか甘くてノスタルジックな旋律も紛れ込む。
N.Y.パンクの一派とは言っても、テレヴィジョンは他のどんなバンドとも違う、突然変異のようなバンドだった。すでにパンク・ムーヴメントの後にやってくるニュー・ウェイヴの萌芽すら感じる。
彼らの1stアルバム『マーキー・ムーン』はロック史に残る名盤だった。しかし、1stがあまりにも衝撃的だったせいか、2ndアルバム『アドヴェンチャー』は同じような内容でありながら、新鮮味とインパクトに欠けたことで評価を得られず失速。リリースからわずか4カ月後の1978年8月に解散してしまう。
そう思うとロックというのも、栄枯盛衰の激しい水商売みたいな、残酷無情な世界だ。
それでもテレヴィジョンがロック史に決して消えることのない足跡を残し、後進のアーティストたちに大きな影響を与えた事実は永久に消えない。
以下はわたしがお薦めする、最初に聴くべきテレヴィジョンの至極の名曲5選です。
See No Evil(1977)
衝撃の名盤1st『マーキー・ムーン』の、ツカミとしては最高のオープニング・トラック。トム・ヴァーレインは「出来る限り大きな音で聴いてほしい」と語っている。
Friction(1977)
frictionというのは「摩擦」とか「軋轢」みたいな意味らしいが、「おれはおまえに摩擦を与える」というとエロいことも想像できるし、「君たちに軋轢を与えよう」と取ればまた猟奇的な異常性が顔をのぞかせる。どっちにしろ、目の据わったヤバい詩人による、この世のものではないあの世のもののような歌だ。
Venus(1977)
トム・ヴァーレインのシャリ~ンという現実感のない響きのギターと、リチャード・ロイドの艶めかしい響きのギターの共鳴と絡み合いが刺激的で官能的だ。陶然とした心持になる名曲だ。
Marquee Moon
テレヴィジョンの代表曲であり、10分46秒という長さの大作だ。
だいたいわたしは5分の曲でも長く感じてしまうタチなのだけど、この曲はずっと聴いてられる。永遠に聴いてられる、と思うほどだ。でも日中は聴けない。やっぱり夜じゃないと。
Glory
2ndアルバム『アドヴェンチャー』からも1曲選んでおこう。この曲はアルバムのオープニング・トラックで、シングルカットもされた。
1stに比べて評価が低いのは、1stにあったヒリヒリするようなアブない感じがなくなり、なんだか丸くなってすっかり落ち着いたように聴こえるかららしい。
やってることはそれほど違わないのだけれどなあ。
入門用にテレヴィジョンのアルバムを最初に聴くなら、なんといっても1st『マーキー・ムーン』だ。それ以外のチョイスはあり得ませぬ。
(Goro)