ニック・ケイヴの職権濫用デュエット二題

Henry Lee

ニック・ケイヴ & PJハーヴェイ
ヘンリー・リー (1996)

Nick Cave & PJ Harvey and The Bad Seeds
Henry Lee (1996)

1996年2月にニック・ケイヴがリリースした、全10曲がすべて殺人の歌という恐るべきアルバム『マーダー・バラッズ(Murder Ballads)』に収録された、PJハーヴェイとのデュエット曲だ。

この曲の録音とMVの制作の過程で二人は親密になり、恋愛関係へと発展したという。MVなんてもう、AVを見てるような気分にさせられる。

楽曲はニック・ケイヴのオリジナルではなく、スコットランドが起源の「ヤング・ハンティング」という伝承曲で、アメリカでは「ヘンリー・リー」のタイトルで知られているらしい。

主人公の男性は、彼の子供を身ごもったと言う女性に対し、別のもっと美しい女性に恋してるんだ、と告げる。怒りに燃えた女性は彼に酒を飲ませて酔わせ、刺し殺し、川に死体を棄てる。後に死体が発見されて彼女の犯行が発覚し、火あぶりとなった、という凄絶に哀しい歌だ。

ニック・ケイヴとPJハーヴェイの交際期間は、当時は大いに話題になっていた割に短く、4ヶ月間だったということだ。破局は、PJハーヴェイがニック・ケイヴに電話をかけてきて「別れましょう」と告げたという。理由を訊いても彼女は「もう終わったから」としか言わなかったという。

要するにニック・ケイヴがわけもわからずフラれたというわけだが、もともと彼には一夫一妻制の概念がなく、道具をズボンの中にしまう暇もないという人物らしく、そういったところが原因になったのではないかとゲスな推測もされている。

まあなんにしろ、酔わされて殺されなかっただけ、よかったと思う。

そして、同じアルバムにニック・ケイヴは、彼が若い頃からガチでファンだったカイリー・ミノーグとのデュエット曲も収録している。

たいしたものだ。いろんな意味で絶頂期だったのだろう。だいぶ浮かれていたに違いない。

Where the wild roses grow [Single-CD]

ニック・ケイヴ & カイリー・ミノーグ
ホエア・ザ・ワイルド・ローゼズ・グロウ (1996)

Nick Cave and The Bad Seeds (ft. Kylie Minogue)
Where The Wild Roses Grow (1996)

この曲も殺人アルバム『マーダー・バラッズ』収録曲だ。ニック・ケイヴがもともと大ファンだったというカイリー・ミノーグにオファーした、念願のデュエット作だった。

男が「野生のバラ」のように美しい女性、エリーザ・デイに恋をし、3日間の逢瀬の末に彼女を川辺で殺害するという悲劇的な物語が、男性側の視点とすでに死者となっている女性側の視点で交互に歌われる。

歌詞の内容は恐ろしげだけれども、メロディはキャッチーで美しく、オルタナとポップがうまい具合のバランスで融合した傑作である。

シングル・カットされて、全豪2位、全英11位と、ニック・ケイヴにとって最大のヒットとなり、オーストラリアのARIAミュージック・アワードでは「最優秀楽曲賞」を含む3部門を受賞した。

これよりずっと以前にロッキング・オン誌は、どうやらあの暗黒大王はカイリー・ミノーグのファンらしいというスクープを掲載し、直接本人にインタビューで詰問し、確認に成功していた。

  来日したときにレコード会社の担当ディレクターからごっそりカイリー・グッズを貰って帰ったって話を聞きましたけど。

ニック「そいつは嘘だね。カイリーちゃんグッズならもうとっくに全部持ってる。日本のレコード会社からわざわざ貰う必要なんかないよ」

MVでは、カイリーちゃんに死体役をやらせて、その体を撫でまわすという、堂々たる職権濫用を行なっている。

「ヘンリー・リー」と「ホエア・ザ・ワイルド・ローゼズ・グロウ」を収録したアルバム『マーダー・バラッズ』は、あらゆる意味で、ニック・ケイヴの絶頂期だったと言えるだろう。

(Goro)