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Peter Gabriel
“Peter Gabriel 3” (1980)
冒頭から聴こえるゲート・リバーブ・ドラムのバンッ!という音に、「ああ、80年代に突入したんだなあ」と実感する。やっぱり80年代といえば、バブル経済、ワンレンボディコン、ゲート・リバーブ・ドラムなのだ。
このゲート・リバーブ・ドラムは、偶然の産物だったらしい。
A1「イントルーダー」のドラムを、ゲスト参加したフィル・コリンズが叩いていたときに、たまたまスタジオの会話用マイクがオンになっていて、その音に重い「リバーブ」と「ゲート」のエフェクトがかかっていたという。
つまり、ドラムの音に「リバーブ」が残響を加え、「ゲート」がその残響を途中でバッと切るという加工が偶然にされたのだ。バーーンとなるところをバンッ!で切ったことによってて、思いがけないパワフルな響きのドラムの音が作られたのだった。
これを聴いたピーター・ガブリエルが「こりゃ面白い!」と採用したのが、リバーブ・ゲート・ドラムの始まりだった。
↓ 80年代を象徴する「ゲート・リバーブ・ドラム」が誕生した「イントゥルーダー」。
フィル・コリンズも早速自身の楽曲「夜の囁き」で使うと大ヒットし、さらにはデヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」でも派手に使われると爆発的に広まり、80年代は猫も杓子もリバーブ・ゲートという時代になったのだった。
さらに本作には、リバーブ・ゲート・ドラム以外にも様々なアイデアや新機軸が取り入れられ、まるで80年代ロックの研究開発を担った実験工房のような様相を呈している。
ピーター・ガブリエルは育ちの良い秀才の完璧主義者、みたいなイメージをわたしは勝手に持っているのだけど、その音楽のひんやりするほどに人工的な音響と、妙に人間臭い生々しい声、そして豊かなメロディーという、ミスマッチとも思える魅力にわたしは興味を惹かれてきた。
本作はピーター・ガブリエルのソロ3作目であり、1980年5月にリリースされた。
ちなみにピーガブのアルバムは1枚目から4枚目まですべて「Peter Gabriel」というまったく同じタイトルだった。
いかにも変人が思いつきそうなことだが、きっとレコード会社は良い迷惑だったろう。国によっては「1」「2」と付けていたり、ジャケのデザインから「車」「メルトダウン」などと呼称された。日本ではかつて「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲ」「Ⅳ」という「邦題」が付けられていたが、現在は「1」「2」「3」「4」に変わっている。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 イントゥルーダー
2 ノー・セルフ・コントロール
3 スタート
4 アイ・ドント・リメンバー
5 ファミリー・スナップショット
6 アンド・スルー・ザ・ワイヤー
SIDE B
1 ゲームズ・ウィズアウト・フロンティアーズ
2 ノット・ワン・オブ・アス
3 リード・ア・ノーマル・ライフ
4 ビコ
B1「ゲームズ・ウィズアウト・フロンティアーズ」は全英シングルチャートの4位まで上昇する、ピーガブにとって初めてのトップ10ヒットとなった曲だ。歌詞はTVの長寿ゲーム番組「国境なきゲーム」になぞらえて、戦争を起こしてきた為政者を批判する内容らしい。
そしてラストの「ビコ」も重要な曲だ。
人種隔離政策が行われていた南アフリカで、黒人の解放を訴えていた運動家スティーヴ・ビコが警察の尋問中に暴行され死亡した事件に強い衝撃を受けて書かれた曲だという。
ピーガブが政治的なメッセージを初めて打ち出した内容であり、実際の葬儀の録音から始まる楽曲は、アフリカのポリリズムを意識した荘厳で反復的なドラムが特徴だ。
斬新なサウンドを発明し、ワールド・ミュージックという外の世界へも目を向け始めた本作は、全英1位、全米22位と、ピーター・ガブリエルにとって過去最高のヒットとなり、80年代ロックのひとつの方向性をも示した野心作としてシーンに大きな影響を与えることになる。
ここからピーター・ガブリエルの、ジェネシス時代のバカ殿様みたいな姿からは想像もできないほどの大出世が始まったのだ。
↓ 全英4位まで上昇し、ピーガブ初のヒット曲となった「ゲームズ・ウィズアウト・フロンティアーズ」。彼が初めてドラムマシンを使った曲でもある。コーラスを務めているのはケイト・ブッシュだ。
↓ 南アフリカの黒人開放運動家スティーヴ・ビコの、警察による暴行死に対する憤りを歌った「ビコ」。
(Goro)