Talking Heads
“Remain in Light” (1980)
もはやロックンロールではない。
と言ったのは、本作を発表した直後のデヴィッド・バーンだ。
わたしもそう思う。ただし、聴いてみて訳のわからないものではまったくないし、ここまで振り切ってみせたのもまた、ロックならではの過激な実験精神とも言える。
ちゃんとロック・リスナーが聴くに耐えうる絶妙なところで踏ん張りながらも、新しい音響世界を創造して見せたのはバンドのバランス感覚なのかもしれない。もしもプロデューサーのブライアン・イーノが興奮しすぎてこれ以上あっちのほうへ行ってしまっていたらロック・リスナーには付いていけなかったかもしれない。彼のソロ作品のように。危ないところだった。
前作『フィア・オブ・ミュージック』のオープニング曲「イ・ズィンブラ」の出来に「これだ!」と思ったのだろう。
1980年10月にリリースされたトーキング・ヘッズの4枚目のアルバム『リメイン・イン・ライト』はその「イ・ズィンブラ」の世界をさらに拡大し、アフリカ音楽(フェラ・クティを手本にしているらしい)の要素にファンクのグルーヴを融合させ、ニュー・ウェイヴの革新性を加えた、オリジナリティあふれる異色作だ。まさに「普通のロックお断り」という状況だった80年代の幕開けにふさわしい画期的な傑作だった。全米19位、全英21位と、バンドにとってどちらも過去最高まで上昇した。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 ヒート・ゴーズ・オン (ボーン・アンダー・パンチズ)
2 クロスアイド・アンド・ペインレス
3 グレイト・カーヴ
SIDE B
1 ワンス・イン・ア・ライフタイム
2 ハウシズ・イン・モーション
3 シーン・アンド・ノット・シーン
4 リスニング・ウィンド(風は友)
5 オーヴァーロード
ニュー・ウェイヴのプログレ、という感じがしないでもない。
極端に賛否が分かれそうな作品であり、「80年代最高のアルバム」と言う人もあれば、「何がいいんだか全然わからない」と言う人もいるだろう。わたしはたぶん、どっちの意見にも「だよねー」と首肯するような気がする。両方わかるからだ。
それでもトーキング・ヘッズというバンドの凄みというのは圧倒されるほどに伝わってくる。そして聴けば聴くほどに、刺激的で、快楽的で、高揚感を感じる麻薬のようなサウンドでもある。中毒性は高い。
このあまり感情はないけれども、体を刺激するビートが快い乾いた音楽を、わたしはあまりなにも考えたくないときに聴く。くよくよじめじめした気分がすーっと抜けて、掃除が行き届いて埃も湿気もないログハウスで昼寝をするような、もう何もかもどうでもいいような、実に爽やかな気分になるのだ。
↓ 「これが人生か?」と繰り返すミニマル・ミュージック風の代表曲「ワンス・イン・ア・ライフタイム」。
↓ シングル・カットされ米ダンス・チャートの20位まで上昇した「クロスアイド・アンド・ペインレス」。
(Goro)