Primal Scream
“Vanishing Point” (1997)
このアルバムのタイトルを聞いたときは、震えたものだ。
大好きなプライマル・スクリームが、当時すでに26年前の古い映画だったにもかかわず、わたしがレンタルビデオで見て大好きになっていた映画のタイトルをそのまま使ったアルバムだったからだ。
さすがプライマル・スクリーム!と思ったものだ。わたしと同様、カッコいいものに時代錯誤もクソもない、と思っているみたいなのが嬉しかったのだ。なにしろわたしは、当時映画館で働いていながら、最新の映画よりも、アメリカン・ニュー・シネマやヌーヴェル・ヴァーグなどの、時代は古いけれどもカッコ良さはまったく古びていない映画をビデオレンタルで探し出して見ることに夢中だったのだ。
本作が生まれたのは、フロントマンのボビー・ギレスピーとギタリストのアンドリュー・イネスが来日中に、東京のホテルのテレビで1971年の映画『バニシング・ポイント』を偶然観たことがきっかけだったという。「映画の内容は最高だけど、音楽がヒッピーすぎる。もっと映画のムード(スピード狂の狂気)に合う音を自分たちで作ってみよう」と考えたのが始まりだったという。
本作はプライマル・スクリームの5枚目のアルバムとして1997年6月にリリースされ、全英2位、日本でもオリコン14位(過去最高)のヒットとなった。
【オリジナルCD収録曲】
1. バーニング・ウィール
2. ゲット・ダフィー
3. コワルスキー
4. スター
5. イフ・ゼイ・ムーヴ、キル・エム
6. アウト・オブ・ザ・ヴォイド
7. STUKA
8. メディケイション
9. モーターヘッド
10. トレインスポッティング
11. ロング・ライフ
26年前の映画にインスパイアされた作品でありながら、そのサウンドは衝撃的なほど新しかった。すでに下火になっていたブリット・ポップが、わたしの中では完全に過去のものになった瞬間だった。
97年というと、プロディジーやケミカル・ブラザーズ、ファットボーイ・スリムなどの”ビッグ・ビート”(ロックのマインドを持ったテクノ系のダンス・ミュージック)勢が大ブレイクした年だけれども、いくら「ロックのマインドを持った」などと言われても、クラブという場所にそもそも縁がなく、電子楽器に今ひとつ興奮しないタチのわたしには、楽しむことはまあできても、熱くなることはどうしてもできなかった。
しかし電子楽器やダブといった、実験的で「最新」の手法を使いながらも、本作のシビれるほどのカッコ良さは、やはりプライマル・スクリームというバンドは「ロック」という、ぶっとくて先の尖った「芯」をその中心に持ってブレることがないからだろうなと思うのだ。
彼らはもう、何をどう料理しようが、「ロックの味」になってしまうのだ。
ボビー・ギレスピーは、「『バニシング・ポイント』は廃車置き場が崩壊する音」と表現したけれども、なるほど、まさにそんな感じだ。
あらためて今このアルバムを聴くと、同じ年にリリースされたレディオヘッドの『OKコンピューター』と共に、ロックの潮目を変えた重要作だったんだなとも思う。
些細なことだけれども、本作の邦題を『ヴァニシング・ポイント』ではなく、ちゃんと映画の邦題に合わせて『バニシング・ポイント』にしてくれたのも、ちゃんとしていて嬉しく思ったものだ。
↓ アルバムのオープニングを飾る「バーニング・ウィール」。全英17位まで上昇した。
↓ 映画の主人公の名前を冠した、アルバムの顔となった衝撃のシングル「コワルスキー」は全英8位のヒットとなった。警察無線など、映画からサンプリングしたセリフが散りばめられている。また、本作からバンドに加入した、元ストーン・ローゼスのベーシスト、マニ(ゲイリー・モーンフィールド)が大きく貢献した楽曲だ。
(Goro)
