極上のメロディを作る普通の男たち 〜トラヴィス『ザ・マン・フー』(1999)【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#377

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【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#377
Travis
“The Man Who” (1999)

「トラヴィス」という名前に、わたしはもう合点がいったとばかりに『タクシー・ドライバー』でロバート・デ・ニーロが演じたあの主人公の名前から取ったのだな、あの鬱々とした生活感、狂気と英雄の紙一重のヒリヒリした感じを込めたんだなと思い込んでいたのだけれども、今回あらためて調べてみて、どうやら違うらしいということがわかった。

映画の主人公には違いなかったが、ヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』のほうの主人公のトラヴィスだった。あの赤いキャップを被った、無口で物悲しい放浪の男の方だったのだ。

なるほど、そうだったか。それならもっと合点がいく。英雄的要素はないのだ。

本作を一聴すれば、きっと誰もが思うのが「レディオヘッドかよ!」ということだろう。弱々しい自身無さげな声で、乾いた感情と共に静かに美メロを歌う、時代の申し子のようなスタイルだ。

しかしもともとトラヴィスは、1996年発表の1stアルバムまではオアシスのような威勢の良い荒っぽいサウンドで、ブリット・ポップの仲間入りを目指していたような節のあるバンドだったのだ。ノエル・ギャラガーにも気に入られて、オアシスの全英ツアーの前座にも抜擢されたほどだった。

だったのに、本作では『OKコンピューター』のプロデューサー、ナイジェル・ゴッドリッジを起用するというあからさまな路線変更は、レディヘの権勢が凄かったこの時代のリスナーには大歓迎されたけれども、レディヘ嫌いのギャラガー・ブラザーズにはさぞかし裏切り者扱いされたに違いない。

レディへの影響がどれほどのものだったかはわからないが、しかし彼らは虚勢を脱ぎ捨てて、弱さや凡庸さを曝け出し、ずいぶん楽になったような、そんなホッとしたため息が聴こえてくるようだ。

本作はトラヴィスの2ndアルバムとして、1999年5月にリリースされた。

【オリジナルCD収録曲】

1 ライティング・トゥ・リーチ・ユー
2 ザ・フィアー
3 アズ・ユー・アー
4 ドリフトウッド
5 ザ・ラスト・ラフ・オブ・ザ・ラフター
6 ターン
7 ホワイ・ダズ・イット・オールウェイズ・レイン・オン・ミー
8 ラヴ
9 シーズ・ソー・ストレンジ
10 スライド・ショウ

アルバムは全英1位に輝く大ヒットとなり、翌年のブリット・アワードでは、最優秀英国アルバム賞にも選ばれた。

レディオヘッドほどややこしくないので親しみやすく、しかし雰囲気と情感はたっぷりある。轟音ギターをアグレッシヴにかき鳴らす代わりに、日常のやるせなさや泣き言をメロディアスに歌う、というスタイルは、何もかもが不確かに思えた世紀末という時代のリスナーに共感を呼んだようだ。

しかし一方で、「普通すぎて退屈なバンド」と冷笑する辛口な批評家たちもいた。

たしかに、フラン・ヒーリー (Vo) の書くメロディには毒気も虚勢もないけれども、日常生活レベルの寂寥感とでもいうべきものを持っている。なんというか、英雄的なところが少しもない、極上のメロディを作る普通の男、とでもいった感じなのだ。

そんな普通の男たちのバンドの影響力は、決してバカにしたものではなかった。

この翌年、2000年代のロックシーンにおいて最初にブレイクしたバンド、コールドプレイのクリス・マーティンは次のように語っている。

「トラヴィスは、僕らのバンドや他の多くのバンドを『発明』した存在だ。……彼らが道を切り開いてくれなければ、僕らは存在しなかった」(Daily Record インタビュー)。

↓ アルバムからの最初のシングルで、全英14位まで上昇した「ライティング・トゥ・リーチ・ユー」。

↓ 全英10位、初の欧米各国のチャート入りも果たしたブレイク曲「ホワイ・ダズ・イット・オールウェイズ・レイン・オン・ミー」。

(Goro)