米テキサス州出身のバディ・ホリーは、1956年に「ラヴ・ミー」でデッカからデビューした。
このシングルはあまり売れず、デッカはもう1枚だけシングルを出して、バディ・ホリーをクビにする。
翌年にコーラル・レコードに移籍すると、デッカで録音したものの「最悪の曲」と評価されてお蔵入りになっていた「ザットル・ビー・ザ・デイ」を再録音し、全米1位、100万枚を超える大ヒットとなった。
デッカは惜しいことをしたな。
デッカの担当者に先見の明が無かったと言えばそれまでだけれど、きっと新しすぎてどう評価していいのかわからなかったのだろう。
革新的なアーティストにはこういうエピソードが付き物だ。
大きな会社に属している人たちというのはやっぱり、流行っているものを探してくるのは得意だけれど、次に流行るものを見つけ出して推す勇気はなかなか無いものだ。上下左右四方八方の顔色を窺いながら仕事をしている人たちなので、間違ったら大変だからだ。
バディ・ホリーはチャック・ベリーやリトル・リチャードのように黒人ではなく、エルヴィスのようにワイルドでセクシーでもなかった。
彼は20歳になったばかりで、学生みたいなメガネをかけて、目立たなくてひ弱そうな、ロックンロールとはいちばん遠い存在のようにも見えたのかもしれない。
その「ザットル・ビー・ザ・デイ」のブレイクから、1959年2月に彼が飛行機事故で彼がこの世を去るまではわずか1年と9カ月に過ぎない。
そのたった1年9カ月のあいだに、彼が様々なアイデアや録音方法を試して遺した録音はヒット曲、名曲、実験作の宝庫で、まさにその後60年以上の歴史が作られていく素となった、光り輝く〈ロックの原石〉だったのだ。
ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムというロックバンドの基本的な編成を創り出したのも彼だったし、ビートルズはそれに倣ったのだ。
ロック史における最高峰の天才であり、その後のロック・ポップスの源流となった真に偉大なアーティストだ。
彼がもう少し生きていたら、レノン&マッカートニー以上の作品を残したに違いないとわたしは確信している。
以下は、わたしが愛するバディ・ホリーの至極の名曲ベストテンです。
Not Fade Away
バディ・ホリーはボ・ディドリーを余程リスペクトしていたらしく、ディドリーのデビュー曲「ボ・ディドリー」もカバーしているし、彼のジャングル・ビートを手本にしたと思われる曲もいくつか書いている。
この曲もそんな曲のひとつだ。
「オー・ボーイ」のシングルのB面として発表されたが、ローリング・ストーンズがカバーして、アメリカでのデビュー・シングルとなったことでさらに有名になった曲だ。
Rave On
ロカビリー歌手のソニー・ウエストが書いた曲。
ウエスト版のシングルが発売されて2カ月後に、ホリー版が発売され、ホリー版のほうがヒットした。全米37位、全英5位。
節回しやアレンジがほんの少し違うようなものだが、この少しの違いが決定的に新しいホリー版と、古い時代のポップスにしか聴こえないウエスト版の差は大きかった。
Think It Over
1958年5月にリリースされたザ・クリケッツ名義のシングル。全米27位、全英11位。
バディ・ホリーは、大人の事情で当時2社のレーベルと契約していて、ブランズウィックからはザ・クリケッツ名義で、コーラルからはバディ・ホリー名義でレコードをリリースしていた。どうやら、前所属のデッカで録音した曲がバディ・ホリー名義では使えないことが理由だったようだ。
R&B風のメロディが印象的な、思わず口ずさみたくなる曲だ。
Words Of Love
バディ・ホリーのブレイク作「ザットル・ビー・ザ・デイ」の次のシングルとして発売されたが、チャートには入らなかった。
でも、この曲では全編で甘酸っぱい青春の思い出のような、シンプルだけど美しいギター・フレーズが聴ける。むしろ主役は歌よりもギターのほうだ。そういう曲の作り方をしたことでもバディ・ホリーは画期的だった。
1964年のビートルズのアルバム『ビートルズ・フォー・セール』にカバーが収録されたことで、今でも有名な曲のひとつだ。
Heartbeat
全米82位、全英30位と、そこまで売れていないが、わたしは昔からこの曲が好きだ。
なぜかなんてよくわからないけれども、こういう無理のない流れるような美しいメロディと完璧なアレンジが奇跡のように聴こえる。
It’s So Easy!
これもまったく売れなかったシングルだけど、19年後にリンダ・ロンシュタッドがカバーすると、全米5位の大ヒットとなった。
文句なしにカッコイイサビが印象的だ。
Everyday
シングル「ペギー・スー」のB面に収録された曲。
〈ファンシー・ミュージック〉なんて言いたくなるような可愛らしいアレンジで、ドラムの代わりにパタパタ鳴ってるのは膝を叩いている音だ。
スタジオでいろんなことを実験していつも新しいサウンドを探していたバディ・ホリーらしい遊び心のある曲だ。シンプルなメロディと、ちょっとだけひねったサビもいい。
日本では、1986年の映画『スタンド・バイ・ミー』(サントラがすごく売れた)で使われてからとくに有名になった曲でもある。
Peggy Sue
歌詞はほとんどペキペギスースーばかりで、初めはフザけてるのかと思ったぐらいだけど、よく聴くとドラムの異常なほどの連打と、ギターとベースのあまり聴いたことのないリズム・パターンで浮遊感のある斬新なサウンドを創り出している。
目の覚めるような音のエレキギターがソロのところだけ突然入って来るのも刺激的だ。
ちなみにこのペギー・スーという人は、このドラマーの当時の彼女の名前なのだそうな。
だからこんなに張り切ってるのだろう。
常に新しいサウンドを追求していたホリーらしい、彼の代表曲。全米3位、全英6位。
Oh Boy!
「レイヴ・オン」と同じく、ロカビリー歌手のソニー・ウエストが書いた曲。ウエスト版はヒットしなかったが、ホリー版は全米10位、全英3位の大ヒットとなった。
テンポが速く、エッジの効いた性急感がカッコいい。
ホリーのパワフルなヴォーカルもカッコいいし、クリケッツのコーラスも良い。
That’ll Be The Day
バディ・ホリーが最初に契約したレコード会社は大手のデッカだったが、シングル2枚を発売しただけで鳴かず飛ばずだった。
「ザットル・ビー・ザ・デイ」も録音したものの、プロデューサーやエンジニアからは「最悪の曲」と言われ、デッカの担当者も「君は私が今まで仕事してきた中で最も才能が無い」と告げられ、デッカをクビになったという。
しかしこの曲に自信を持っていたホリーは、翌年にコーラル・レコードに移籍するとこの曲をシングルとして発売し、全米1位の大ヒットとなった。
デッカはデッカい魚を逃したものだけど、新しすぎてどう評価していいのかわからなかったのだろう。
ポップだけど甘すぎず、肩の力の抜けた感じがまた良く、短いイントロと間奏のギターの、美しい音にシビれる。
バディ・ホリーの入門用CDにはこれがお薦め。
20曲入りで、今回選んだ10曲もすべて入っています。
(Goro)