⭐️⭐️⭐️⭐️
The Neville Brothers
“Yellow Moon” (1989)
強い強い、ベースが強い。
生々しく美しい歌声に、ボディに刺し込まれるパーカッション、ピカピカに磨き上げられたような金管の輝かしい響き。
そのサウンドの素晴らしさに冒頭から呆気にとられているうちに、いつのまにか不思議な音響に彩られた異世界へと入り込んでいる。ダニエル・ラノワが司る異世界である。
そんなアルバムだ。
ネヴィル・ブラザーズはニュー・オーリンズ出身のネヴィル四兄弟によって結成され、1978年にデビューしたバンドだ。
デビュー以来10年、ライヴの評判は高かったものの、それまでに発表した3枚のレコード・セールスは最高位で全米155位と振るわなかった。
それがどういう経緯でそうなったのか知らないが、4作目となる本作でダニエル・ラノワをプロデューサーに迎えた。
ダニエル・ラノワとは、当時三十代で、ピーター・ガブリエルの『So』、そしてU2の『焔』『ヨシュア・トゥリー』という世界的ヒットを連発した鬼才プロデューサーである。
本作はラノワと彼の懐刀、ブライアン・イーノの手腕が存分に発揮されており、ミステリアスで幽玄な音空間はまさに「異世界」というほかない。
四兄弟たちにはちょっと申し訳ないけれども、本作は「ネヴィル・ブラザーズの傑作」というより、「ダニエル・ラノワの最高傑作のひとつ」として挙げたくなる名盤である。
【オリジナルCD収録曲】
1 マイ・ブラッド
2 イエロー・ムーン
3 ファイヤー・アンド・ブリムストン(リンク・レイ)
4 ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム(サム・クック)
5 シスター・ローザ
6 神が味方(ボブ・ディラン)
7 ウェイク・アップ
8 ヴードゥ
9 ホリス・ブラウンのバラッド(ボブ・ディラン)
10 ウィル・ザ・サークル・ビー・アンブロー(カーター・ファミリー)
11 ヒーリング・チャント
12 ワイルド・インディアンズ
アフロ・ミュージックに始まり、ソウル、レゲエ、ジャズ、ファンク、ゴスペル、ヒップ・ホップ、フォークと様々な要素がディープに混在して、独創的な世界を創出している。
アルバムは全米66位と、彼らとしては大成功を収めた。
12曲中5曲がカバーで、ボブ・ディラン、サム・クック、リンク・レイ、カーター・ファミリーとジャンルを横断する内容で、どれも素晴らしい出来だ。
唯一のインストである「ヒーリング・チャント」は、1989年のグラミー賞で最優秀ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンス賞を受賞した。
↓ 米R&Bチャート75位ながら、彼らにとっては唯一のチャート入りとなったシングル「シスター・ローザ」。
↓ サム・クックのカバー「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」は屈指の美しさだ。
(Goro)