⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
Bob Marley & The Wailers
“Kaya” (1978)
あのギャングあがりの革命戦士のようなボブ・マーリーのイメージを覆す、輝くような笑顔のジャケットが象徴するように、明るく親しみやすい楽曲が多い、その意味では異色のアルバムと言える。そのため、ファンや評論家の間でも賛否が分かれるアルバムでもある。
確かに異色作とは思うものの、実はわたしはボブ・マーリーの全アルバムの中でも、本作がいちばん好きなのだ。
ボブ・マーリーは1976年12月、政治的な抗争に巻き込まれ、コンサートのリハーサル中に6人の男たちに襲撃され、胸と腕に銃弾を受けるという衝撃的な事件に巻き込まれた。幸い命に別状はなく、2日後に予定されていたコンサートにも出演を強行したものの、その翌日にジャマイカを離れてバハマ、そしてイギリスへと渡った。ロンドンで生活しながら、翌年には『エクソダス』と本作をレコーディングした。
我が身に銃弾が撃ち込まれ、命が奪われようとしたという経験はいったいどれほどの恐怖と絶望を感じただろう。その経験を彼がどう乗り越えたのか、彼をどう変えたのかは知る術もない。
しかしわたしは本作の、まるでなにかが吹っ切れたような、悟りきったような、そして生への喜びに満ちたような明るさに、感動を覚える。メッセージよりも、メロディーが横溢する素晴らしい作品だ。ボブ・マーリーの音楽的才能の豊かさにもまた、あらためて感動させられる。
本作は1978年3月にリリースされ、全英4位のヒットとなった。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 イージー・スカンキング
2 カヤ
3 イズ・ディス・ラヴ
4 サン・イズ・シャイニング
5 サティスファイ・マイ・ソウル
SIDE B
1 シーズ・ゴーン
2 ミスティ・モーニング
3 クライシス
4 ラニング・アウェイ
5 タイム・ウィル・テル
タイトルを見て、メロディを思い出せない曲が1曲もないほど、全曲が印象的なメロディに包まれ、高い完成度を誇る、ボブ・マーリーの全キャリアの中でも最も音楽的に充実した名盤だ。
シングル・カットされたA3「イズ・ディス・ラヴ」は全英9位と、キャリア中最大のヒットとなった。
本作の発表から1ヶ月後、ボブ・マーリーはジャマイカに1年半ぶりに凱旋し、「ワン・ラヴ・ピース・コンサート」を開いた。当時のジャマイカでは、2大政党が抗争に明け暮れ、対立が激化していたが、このときコンサートを見に来ていたその2大政党の両党首をボブ・マーリーはステージに上げ、和解の握手をさせている。
この頃になるとボブ・マーリーは音楽界のみにとどまらず、世界規模の影響力を持ったカリスマ的存在となりつつあった。
78年6月には、アフリカ諸国の国連代表派遣団から、第三世界平和勲章を授与され、80年にはジンバブエの独立式典に出席し、81年4月には、ジャマイカの名誉勲位であるメリット勲位が贈られた。
しかし1980年9月、ジョギング中に倒れたマーリーは、脳腫瘍と診断された。放射線治療などを行うも、腫瘍はすでに全身に転移していた。そして81年5月11日、マイアミの病院で妻と母に看取られ、わずか36歳の生涯を終えた。
↓ キャリア中最大のヒットとなった代表曲「イズ・ディス・ラヴ」。
↓ ジャマイカのスラングでマリファナを意味するタイトル曲「カヤ」。
(Goro)