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The Beatles
“Let It Be” (1970)
もともとは『ゲット・バック』というタイトルで、『ホワイト・アルバム』の次のアルバムとして1969年1月からレコーディングが進められたものの、メンバー間の意見が合わなかったり、口論になったり、ジョージがブチギレて帰ってしまったりと、てんやわんやで作業が進まず、暗礁に乗り上げたまま一旦はお蔵入りとなってしまった。
翌年、そのレコーディングの過程を撮影したドキュメンタリー映画『レット・イット・ビー』が公開されることとなり、そのサウンドトラックとして本作が制作されることがあらためて決まったのだった。
何度かテスト盤まで作られたものの完成に至らなかったアルバム『ゲット・バック』の音源を、ジョンとジョージは旧知のプロデューサー、フィル・スペクターに編集を依頼した。ポールには無断だった。フィル・スペクターはこの音源にアレンジを施しながら、2週間もかからずに1970年4月2日に本作『レット・イット・ビー』を完成させた。
そんなことをしたらどうなるか、だいたい想像がつきそうなものだけれども案の定、無断で自分の曲にオーバー・アレンジの厚化粧が施されたことに激怒したポールは、アルバムの発売中止を強く求めたが、レコード会社との契約上の問題もあり、発売を承諾せざるを得なかった。
そして発売の決定から8日後の4月10日、ポールがビートルズから脱退する意向を表明したことで、実質的にビートルズは解散した(非公表だったが、前年の9月にはポールと口論になった際にジョンが先に脱退を宣言していた)。
本作はそのような経緯でビートルズが解散した1ヶ月後にリリースされた。
そして世界中でアルバムチャートの1位を獲得した。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 トゥ・オブ・アス
2 ディグ・ア・ポニー
3 アクロス・ザ・ユニバース
4 アイ・ミー・マイン
5 ディグ・イット
6 レット・イット・ビー
7 マギー・メイ
SIDE B
1 アイヴ・ガッタ・フィーリング
2 ワン・アフター・909
3 ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード
4 フォー・ユー・ブルー
5 ゲット・バック
当初のアルバムのコンセプトは、「ゲット・バック」で歌われている通り、「元の場所に戻ろう」というものだった。これにはサイケデリックやコンセプト・アルバムなど当時の実験的な要素の多い作風から、初期のシンプルな作風へと原点回帰を果たそうというものだった。もちろんそれは同時に、バラバラになりつつあった4人の関係の修復を目指してもいたのだろう。
当初のアルバム・ジャケットとして撮られた写真が、1st『プリーズ・プリーズ・ミー』とまったく同じ場所の同じアングルの写真を使用する予定だったことからもその意気込みが窺える(この写真は後に『青盤』のジャケットに使用された)。
しかし残念ながら、彼らが元の場所に戻ることはなかったのだ。
その意味では、フィル・スペクターによる厚化粧とも言えるオーバー・アレンジもまた、当初の構想にそぐわないものではあった。
わたしもこの厚化粧のアレンジがあまり好きではなかった。だからこの【最強ロック名盤500】に取り上げるのにも迷いがあった。
しかし、本作の再編集版と言うべき『レット・イット・ビー…ネイキッド』という2003年にリリースされたアルバムを思い出し、あらためて聴いてみた。
これはフィル・スペクターが塗り重ねた厚化粧を削ぎ落とし、当初のままのすっぴんの状態に戻そうというコンセプトで、当然ながらもともと強い不満を持っていたポールの提案により、リンゴとジョージとついでにヨーコの賛同も得て進められた企画だった。
わたしはこの『ネイキッド』が結構気に入っていた。シンプルなサウンドで聴きやすく、曲の良さもこちらの方が際立っているようにも聴こえ、あまり好きではなかったアルバムが、これをきっかけに好きになったものだった。「なんだよ、すっぴんの方がかわいいじゃねーか」みたいな。
だから今回は、『ネイキッド』の方を【最強ロック名盤500】に採ろうかなと思ったのだ。
しかしそう思って繰り返し『ネイキッド』を聴いていると、なんだかあの厚化粧も懐かしく思えてくる。すっぴんの方がかわいいとはわかっているのだけれども、あの付き合い始めた頃の厚化粧の彼女も妙に忘れ難く、「ちょっと今夜は、あの厚化粧をしてくんないかな」と頼んでみたくなったりする。
いやそんなプレイの話はどうでもいいのだけれども、オリジナルのフィル・スペクター版もこれはこれで、やりすぎな面もひっくるめて、心に染み付いている青春の思い出のようなものでやはり捨てがたいということで、今回は『ネイキッド』とセットで選ばせてもらうということにしたのである。
↓ 本作中でわたしが一番好きな「アクロス・ザ・ユニバース」。
↓ ビートルズの最も有名な一曲となった「レット・イット・ビー」の『ネイキッド』バージョン。シンプルで聴きやすい至極真っ当なアレンジで、こっちのほうが正解のように思える。
しかし繰り返し聴いてみるとやはりあの濃い化粧が無性に恋しくなってしまう。ギターもドラムも控えめだけど、やっぱりロックバンドって、みんなが控えめに合わせるよりは、ぶつかってでも自己主張し合うような音の方が魅力的に聴こえるものなのかなと考えさせられたりもした。
↓ オリジナル版の「レット・イット・ビー」。
(Goro)