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The Beatles
“The Beatles” (1968)
通称「ホワイト・アルバム」と呼ばれる本作は、真っ白なジャケットに浮き出し加工で「THE BEATLES」と印刷されただけの、タイトルもなく、音楽的コンセプトもない、何もかもが前作『サージェント・ペパーズ』とは真逆の、ある意味「反動的な」作品だ。
サーフ・ロックからコミカル・ソング、ハード・ロック、アヴァンギャルド、シンプルな弾き語りから重厚なオーケストラのアレンジを施したものまで、あらゆる音楽の見本市のような、まるで無関係なパズルのピースを集めたような、とっ散らかったその内容は、LP2枚組の大容量ならではの、ロック・アルバムのまた新たな方法論を示した画期的な作品となった。
プロデューサーのジョージ・マーティンは「収録曲を絞って1枚で出した方がいい」という考えだったらしいが、最終的にはバンド側の主張を押し通して2枚組30曲93分収録でリリースすることになった。
よかった、よかった。
もし1枚に圧縮していたら、ビートルズにもうひとつ「フツーの名盤」が生まれていただけであり、本作のようなロックが幅広い音楽性を積極的に許容することを示した、より自由であえてゴチャついた魅力が溢れる面白い作品にはならなかっただろう。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 バック・イン・ザ・U.S.S.R.
2 ディア・プルーデンス
3 グラス・オニオン
4 オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ
5 ワイルド・ハニー・パイ
6 コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル
7 ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス
8 ハッピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン
SIDE B
1 マーサ・マイ・ディア
2 アイム・ソー・タイアード
3 ブラックバード
4 ピッギーズ
5 ロッキー・ラックーン
6 ドント・パス・ミー・バイ
7 ホワイ・ドント・ウィ・ドゥ・イット・イン・ザ・ロード
8 アイ・ウィル
9 ジュリア
SIDE C
1 バースデイ
2 ヤー・ブルース
3 マザー・ネイチャーズ・サン
4 エヴリボディーズ・ゴット・サムシング・トゥ・ハイド・エクセプト・ミーアンド・マイ・モンキー
5 セクシー・セディ
6 ヘルター・スケルター
7 ロング・ロング・ロング
SIDE D
1 レボリューション 1
2 ハニー・パイ
3 サボイ・トラッフル
4 クライ・ベイビー・クライ
5 レボリューション 9
6 グッド・ナイト
このアルバムがこういった形で生まれた背景には、前年の1967年8月にビートルズのマネージャーだったブライアン・エプスタインが32歳の若さで急死したことが影を落としているようにも思える。
バンドのまとめ役として、または調整役としての存在を失った4人の間に、徐々に対立が表面化していく。本作のレコーディングが開始される前に4人はインドへ瞑想体験の旅行へ出かけるが、リンゴは早々と帰国し、ポールも途中で帰国するなど足並みも揃わなくなっていた。
そして全員が帰国後、インドへの旅行中に各々が書いた曲を持ち寄って作られたのが本作だった。
そして前作までの4トラックレコーダーではなく、画期的な8トラックレコーダーが導入されたことで、メンバーは顔を合わせなくても録音作業を進められるようになり、皮肉にもそれが彼らの対立や心が離れていくことへ拍車をかけたのかもしれない。
以前のような共作もほとんどされなくなり、その結果、良く言えば各々の曲の個性が際立ち、悪く言えばソロ作品の寄せ集めのような散漫な印象も受ける。
『サージェント・ペパーズ』はいったん聴き始めると途中でやめにくい感じのアルバムだったけれども、本作はどこから聴き始めてもいいし、どこでやめてもいい気楽さがある。前者がテンポのいい展開に惹き込まれる長編小説なら、本作はテーマも文体もバラバラな短編小説集のようだ。
そんな気軽さを楽しく思える時もあれば、このバラバラな感じが、バンドが解散へと向かい始めた寂しさを纏って聴こえる時もある。
↓ ジョンが書いた曲で「3つの曲を繋ぎ合わせて作った」という「ハッピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」。意外な展開と複雑さが不穏な空気を醸しているのが魅力だ。
↓ ジョージ・ハリスン作では最も良く知られた名曲のひとつ「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」。クレジットはないが、リードギターはエリック・クラプトンだ。
↓ ポールが「これまでに作られたどんな曲よりもうるさくて激しいヘヴィな曲にしたい」と考たという「ヘルター・スケルター」。演奏するすべての楽器を最大ヴォリュームにしてレコーディングが行われたという。
(Goro)