Bob Dylan “Shadows in the Night”
前作から3年ぶりとなる、ディラン73歳のオリジナル・アルバム。
選曲はすべてスタンダードで、すべてフランク・シナトラが過去に録音したもの。このアルバムがリリースされた2015年はシナトラの生誕100年という記念の年だった。それなら「フランク・シナトラ・トリビュート」みたいなタイトルにしてもよさそうだけれども、そうしなかったのはシナトラがそういうものが嫌いだかららしい。
特設サイトにはディランの次のようなコメントがある。
このアルバムを作ることは本当に名誉なことだった。
こういうものをずっとやりたいと思っていたが、30人編成向けの複雑なアレンジを5人編成のバンド用に精製する勇気を持つことがなかなかできなかった。
今作の演奏はすべてそれが鍵になっている。
私たちはこれらの曲をこれ以上ないくらい熟知していた。すべて一発録りで録音した。
すべて1回か2回のテイクで撮り終えた。オーバーダブもしなかった。
ヴォーカル・ブースもヘッドホンも使わなかった。トラックを分けた録音もしなかった。
そして何よりも、録音された時と同じように、そのままミキシングを行なった。
私はこれらの曲はどう見てもカヴァーとは思っていない。
もう十分カヴァーされてきた曲ばかりだから。実際カヴァーされすぎて本質が埋もれてしまっている。
私とバンドがやっていることは、基本的にその覆い(カヴァー)を外す作業だ。
本質を埋められた墓場から掘り起こして、陽の光を当てたのさ。
(BOB DYLAN 2015)
本作でディランはあのガサガサ声をできるだけきれいに聴かせようと頑張っているようで、いつもよりは比較的きれいめの声で歌っている。
しかし、このアルバムはわたしにとってはなかなかムズい。
シナトラのことも知らなければ、こういったスタンダードの世界をわたしはまったく知らないので、楽しみ方も味わい方もよくわからない。真夜中にバーボンでも飲みながら独りで聴くべき音楽だということぐらいは想像できるのだけれども。
それにしてもディランは、アメリカ音楽のすべてのジャンルを歌いつくそうとしてるかのようだ。次のアルバムではなにを歌うのか、ちょっと楽しみになってきたなあ、などと呑気に思ったものだけど、まさかこれがあの激ムズ期の始まりとなるとは思ってもみなかった。
↓ 「アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー」。