『ブリッジス・トゥ・バビロン』(1997)
The Rolling Stones
前作『ブードゥー・ラウンジ』から3年ぶりとなるスタジオ・アルバム。その制作段階では、なにがなんでも「最先端」でありたいミックと、頑固に俺流のスタイルを貫こうとするキースの激しい攻防戦が繰り広げられたようだ。キースは自伝で以下のように語っている。
ミックは、三人も四人もプロデューサーを使った。場当たり的に。このプロデューサーたちに、八人のベーシストを含むミュージシャンがどっさりいて、事態は収拾がつかなくなった。じっさい、俺とミックは別々のアルバムを作ることになりかけた。ストーンズのメンバーを除いて録音をしてるなんて事態もしょっちゅうだった。(『ライフ』キース・リチャーズ著 棚橋志行訳)
- フリップ・ザ・スイッチ – Flip the Switch
- エニバディ・シーン・マイ・ベイビー? – Anybody Seen My Baby?
- ロウ・ダウン – Low Down
- オールレディ・オーヴァー・ミー – Already Over Me
- ガンフェイス – Gunface
- ユー・ドント・ハフ・トゥ・ミーン・イット – You Don’t Have to Mean It
- アウト・オブ・コントロール – Out of Control
- セイント・オブ・ミー – Saint of Me
- マイト・アズ・ウェル・ゲット・ジュースト – Might as Well Get Juiced
- オールウェイズ・サファリング – Always Suffering
- トゥー・タイト – Too Tight
- シーフ・イン・ザ・ナイト – Thief in the Night
- ハウ・キャン・アイ・ストップ – How Can I Stop
キースが3曲も歌っているのは初めてのことだが、これにもワケがある。
「シーフ・イン・ザ・ナイト」は、初めミックがヴォーカルを入れたのだが、キースに言わせるとこれが「ひどい出来」だったそうで、締め切り間際に勝手にマスターテープを盗み出し、別のスタジオで自分で歌を入れ直し、自分の好みに合わせてリミックスしたと言う。
ミックは昔から、キースのヴォーカル曲が多いとCD購入者は損をしたと感じるはずだと本気で信じていて、キースの歌が3曲も入ることは絶対に受け入れられなかった。
そんなミックに対して、これ以上アルバムの完成を遅らせることができないプロデューサーのドン・ウォズは、「最後のキースの2曲を、曲間を空けずに繋げて収録すれば、聴いた人は1曲だと思うんじゃないか」と提案し、その提案をミックがのんだらしい。だから最後の2曲には曲間がないのだ。
わたしが好きなのはキースが歌う古いレゲエのような「ユー・ドント・ハフ・トゥ・ミーン・イット」だ。アレンジも良いし、キースもいかにも楽しそうだ。
ミックの最先端指向とキースの俺流志向がうまく組み合わさったような「フリップ・ザ・スイッチ」も面白い曲だ。
しかし正直、この時代にストーンズに最先端を求めるファンがいたとは思えない。そんなものはレディオヘッドかベックあたりにでも任せておいて、ストーンズには伝統的で生々しい、魂を感じる音楽をやってほしいのに、なんてわたしは思っていた。
シングル・カットされた「エニバディ・シーン・マイ・ベイビー?」のソングライターのクレジットが(Mick Jagger/Keith Richards/K.D. Lang/Ben Mink)となっているのは、そのコーラス部分がk.d.ラングのヒット曲「コンスタント・クレヴィング(Constant Craving)」に似ているからということだ。これはレコーディング中にキースの娘とその友人が気づいたらしい。訴訟対策ということでk.d.ラングの名前をクレジットに入れることになったが、彼女自身は「こんな光栄なことはない」と語っている。
ちなみにこのPVで、ミックが追いかける丸坊主ストリッパーは、有名になる前のアンジェリーナ・ジョリーだ。『トゥームレイダー』の4年前、22歳のときの”アンジー”である。
(Goro)