ストーンズのカバー原曲を全発掘!【vol.1】Find Original The Rolling Stones Cover Songs

Complete Aristocrat & Chess Si

アルバム・シングルの録音年代順にザ・ローリング・ストーンズの歴史と変遷を辿る【ストーンズの60年を聴き倒す】というシリーズが進行中ですが、同時にこの【ストーンズのカバー原曲を全発掘!】という新シリーズでは、ストーンズが残した多くのカバー曲の原曲を紹介していきたいと思います。可能であればその全曲を。

初期のストーンズはそのレコードのほとんどをブルース/R&Bのカバーが占めており、英国の白人の若者が米国の黒人の音楽を演奏するという、社会文化的な意味でも画期的なアプローチで戦後世代のための新しい音楽〈ロック〉の土台を築いた。その後、オリジナル曲中心への路線変更をして世界的な成功を収めた後も、ストーンズは新たなカバー曲への取り組みや演奏を完全にやめることはなかった。

ストーンズにとってブルース/R&Bのカバーは彼らの音楽性の根幹であり、それはまた後に若者文化の象徴となり、一大産業としても成長を遂げることになる〈ロック・ミュージック〉の源泉でもある。

ストーンズがカバーした曲の、その原曲を聴いてみるという過去への旅は、ブルース/R&B入門にも最適とも言える。実際わたしも、そうやってブルースやR&B、そしてカントリーなど、ルーツ・ミュージックの奥深い世界を知り、徐々に魅了されていったという経験をした。

このシリーズでは全10回ほどに渡って、そんなストーンズがカバーした曲のオリジナル版を、ストーンズの録音年代順に紹介していきたいと思う。

まずは、ストーンズのデビューシングルから、1stアルバムまでに収録されているカバー曲から始めよう。

チャック・ベリー/カム・オン(1961)
Chuck Berry – Come On

ストーンズのデビュー・シングルのA面としてリリースされた曲で、原曲はチャック・ベリー(1926-2017)の’61年のシングル「Go Go Go」のB面に収録されていた。

チャック・ベリーがメキシコで出会った14歳のウェイトレスを連れ回し売春を強要した容疑で逮捕され、その裁判中のリリースということになる。初期の頃に比べると音楽性はかなりポップになっているが、すでに人気が凋落していた米国ではチャート・インすることはなかった。

Come On

マディ・ウォーターズ/アイ・ウォント・トゥ・ビー・ラヴド(1955)
Muddy Waters – I Want to Be Loved

シカゴ・ブルースの王様、マディ・ウォーターズ(1913-83)が歌った曲で、チェス・レコードの屋台骨を支えた名ソングライター、ウィリー・ディクソン(1915-92)の作だ。彼の生み出す作品はパワフルかつモダンであり、ブルースの新たな展開に大きな貢献をした。

ストーンズ版はデビュー・シングル「カム・オン」のB面に収録された。

I Want to Be Loved

ザ・ビートルズ/彼氏になりたい(1964)
The Beatles – I Wanna Be Your Man

ストーンズの2ndシングルのA面曲。いきなりブルースでもなんでもないが、この曲をビートルズからもらった経緯については既にこちらの記事に書いた。

ビートルズのバージョンは彼らの2ndアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』に収録されている。ストーンズとビートルズのバージョンを比較すると彼らの音楽性の違いがよくわかる。

I Wanna Be Your Man (Remastered 2009)

チャック・ベリー/バイ・バイ・ジョニー(1960)
Chuck Berry – Bye Bye Johnny

1960年7月リリースのチャック・ベリーの4枚目のアルバム『ロッキン・アット・ザ・ホップス』収録曲で、シングル・カットもされたが、上述の逮捕後の人気凋落の時期だったため全く売れなかった。

代表曲「ジョニー・B・グッド」への、自らアンサー・ソングとして書いた、なかなかの佳曲だ。ドラムパターンがちょっと変わっている。

ストーンズ版は4曲入りEP『ザ・ローリング・ストーンズ』(1964)に収録されている。

Bye Bye Johnny

バレット・ストロング/マネー(1959)
Barrett Strong – Money (That’s What I Want)

米ミシシッピ州出身のバレット・ストロング(1941-2023)による、全米23位となったヒット曲。彼の歌手としてのヒットはこれだけだが、その後モータウンに作詞家として所属し、マーヴィン・ゲイの「悲しいうわさ」やエドウィン・スターの「黒い戦争」などの大ヒット曲を生み出している。

この曲はストーンズよりもビートルズのバージョンの方が圧倒的に有名だろう。同時期にサーチャーズもカバーしている。

ストーンズ版は4曲入りEP『ザ・ローリング・ストーンズ』(1964)に収録されている。

Money (That's What I Want)

アーサー・アレキサンダー/ユー・ベター・ムーヴ・オン(1962)
Arthur Alexander – You Better Move On

米アラバマ州出身だが、当時のアメリカ本国ではほとんど知られていなかった、哀愁を帯びたメロウな作風のカントリー・ソウル歌手、アーサー・アレキサンダー(1940-93)の佳曲だ。

彼は英国では人気があり、同曲はホリーズもカバーしているし、ビートルズがカバーした「アンナ」も彼の曲だ。

ストーンズ版は4曲入りEP『ザ・ローリング・ストーンズ』(1964)に収録されている。

You Better Move On

ザ・コースターズ/ポイズン・アイヴィー(1959)
The Coasters – Poison Ivy

ロスアンゼルス出身のヴォーカル・グループ、ザ・コースターズの大ヒット曲で、全米7位、全英15位となった。これもブリティッシュ・ビート・バンドたちに人気の曲で、他にマンフレッド・マンやホリーズもカバーしている。

触れると痒みを引き起こしてかぶれる「蔦漆(Poison Ivy)」と呼ばれた少女のことを歌っているが、作詞をしたジェリー・リーバーによれば、性病の暗喩ということだ。

ストーンズ版は4曲入りEP『ザ・ローリング・ストーンズ』(1964)に収録されている。

Poison Ivy (2007 Remaster) (Remastered)

バディ・ホリー&ザ・クリケッツ/ノット・フェイド・アウェイ(1957)
Buddy Holly & The Crickets – Not Fade Away

人気絶頂期の22歳という若さで飛行機の墜落事故でこの世を去ったアメリカの天才シンガーソングライター、バディ・ホリー(1936-59)のカバーだ。1957年のヒット・シングル「オー・ボーイ」のB面に収録されていた曲だ。

ストーンズの3rdシングルのA面としてリリースされた。この時期のストーンズにしては白人のアーティストをカバーしているのが珍しいが、原曲がそもそもボ・ディドリー発明の〈ジャングル・ビート〉に影響を受けたものなのだ。ストーンズはこれをさらに思いきりボ・ディドリー風に「戻して」いる。

Not Fade Away

ボビー・トゥループ/ルート66
Bobby Troup – Route 66

米ペンシルバニア州出身で、トミー・ドーシー楽団の座付きソングライターを務めたボビー・トゥループ(1918-99)が、1946年に作詞・作曲し、ナット・キング・コールの録音によってヒット、その後ジャズのスタンダードとして広く歌われた曲だ。

1961年にチャック・ベリーがロックンロール風のスタイルでカバーしているので、ストーンズはこのチャック・ベリー版を参考にしていると思われる。

ここではボビー・トゥループ本人の歌唱によるバージョンを挙げておく。録音年代は不明。

ストーンズ版は1stアルバム『ザ・ローリング・ストーンズ』(1964)に収録されている。

Route 66 (Remastered)

マディ・ウォーターズ/恋をしようよ(1954)
Muddy Waters – I Just Want to Make Love to You

これもウィリー・ディクソン作。シカゴ・ブルースを代表する名盤『ザ・ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ』の冒頭に配されたこの曲を聴いて、全身総毛立つような衝撃を受けて惚れ込み、わたしがブルースの森へと彷徨い込んでゆくきっかけとなった曲だ。

ストーンズのバージョンも若々しさに溢れていて良いが、マディの重量級の咆哮とリトル・ウォルターの鳥肌もののブルース・ハープの共演にはさすがに敵わない。

ストーンズ版は1stアルバム『ザ・ローリング・ストーンズ』(1964)に収録されている。

I Just Want To Make Love To You

ジミー・リード/オネスト・アイ・ドゥ(1957)
Jimmy Reed – Honest I Do

米ミシシッピ州出身のジミー・リード(1925-76)の代表曲のひとつ。力の抜けた緩いサウンドが特徴のクールなブルースマンだ。ボブ・ディランが使っていたようなあの首から下げるハーモニカ・ホルダーを使用した、甲高い高音部を駆使したプレイが特徴だ。

ストーンズ版は1stアルバム『ザ・ローリング・ストーンズ』(1964)に収録されている。

Honest I Do

ボ・ディドリー/モナ(1957)
Bo Diddley – Mona (I Need You Baby)

米ミシシッピ州出身の、〈ジャングル・ビート〉を発明したボ・ディドリー(1928-2008)が1957年にリリースされたシングル「ヘイ! ボ・ディドリー」のB面として発表された曲だ。この曲もまた典型的なジャングル・ビートの名曲だ。

「モナ」とは当時、黒人専門のエンターテイメント・ショーを見せるデトロイトの高級バーで踊っていた、45歳の女性ダンサーのことで、彼女を賞賛した歌だという。当時ボ・ディドリーは29歳だったので、だいぶ年上の熟女に向けてその想いを歌っているということになる。別にいいけれど。

ストーンズ版は1stアルバム『ザ・ローリング・ストーンズ』(1964)に収録されている。

Mona

スリム・ハーポ/アイム・ア・キング・ビー(1957)
Slim Harpo – I’m a King Bee

米ルイジアナ州出身のスリム・ハーポ(1924-70)の曲。
ルイジアナ・ブルースの代表的なハーモニカ奏者兼シンガーで、緩いレイジーなサウンドが特徴だ。

ストーンズは他に、彼の「シェイク・ユア・ヒップス」も後にカバーしているし、ストーンズのライヴ盤のタイトル『Got Live If You Want It!』は、キンクスやプリティ・シングスもカバーした彼の名曲「Got Love If You Want It」のもじりである。

ストーンズ版は1stアルバム『ザ・ローリング・ストーンズ』(1964)に収録されている。

I'm a King Bee (Remastered)

チャック・ベリー/かわいいキャロル(1958)
Chuck Berry – Carol

チャック・ベリーがまだ逮捕される前、ヒット曲を連発していた全盛期にリリースされたシングルで、全米18位のヒットとなっている。

ストーンズは1stアルバムにこの曲の躍動感あふれる生き生きとしたカバーを収録し、また1970年リリースのライヴ盤『ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト』にも収録されている。

Carol

マーヴィン・ゲイ/キャン・アイ・ゲット・ア・ウィットネス(1963)
Marvin Gaye – Can I Get a Witness

初期モータウンを支えたスター、マーヴィン・ゲイ(1939-84)の、全米22位のヒットとなったブレイク作だ。女声コーラスはまだ売れる前のシュープリームスが務めている。

ストーンズ版は1stアルバム『ザ・ローリング・ストーンズ』(1964)に収録されている。

Can I Get A Witness

ジーン・アリソン/ユー・キャン・メイク・イット・イフ・ユー・トライ(1957)
Gene Allison – You Can Make It If You Try

米テネシー州ナッシュヴィル出身のR&B歌手、ジーン・アリソン(1934-2004)のヒット曲。全米37位。テッド・ジャレット作で、タイトルは「やればできる」という意味だ。

50年代後半の作ながら、すでに60年代のサザン・ソウルのような雰囲気のあるバラードだ。このヒットによってジーン・アリソンは24時間営業のソウルフード・レストランを開業したという。

スライ&ザ・ファミリー・ストーンの『スタンド!』に収録されたカバーもよく知られている。

ストーンズ版は1stアルバム『ザ・ローリング・ストーンズ』(1964)に収録されている。

You Can Make It If You Try

ルーファス・トーマス/ウォーキング・ザ・ドッグ(1963)
Rufus Thomas – Walking the Dog

米テネシー州メンフィスのR&Bシンガー、ルーファス・トーマス(1917-2001)の大ヒット曲。全米10位。このオリジナルのベースラインは犬の吠える声を模したものなのだそうな。

ストーンズが最初にカバーし、彼らの1stアルバムのラストを飾ったが、この曲は後にキングスメン、ソニックス、エヴァリー・ブラザーズ、エアロスミス、ドクター・フィールグッド、ラット、グリーン・デイなどなど、数えきれないほど多くのアーティストにカバーされる。

ちなみにストーンズのバージョンは、コーラスがブライアンひとりというめずらしい編成で録音されている。

Walking the Dog

以上の17曲をぶっ続けで聴けるプレイリストを作成しましたので、ご利用ください。

Come On

vol.1は以上です。

次回vol.2もご期待ください。

(Goro)