1991年にデビューしたブラーの最初の印象は、デーモン・アルバーンのあの顔であり、「やけにハンサムなヴォーカルがいるバンド」というものだった。そしてそのせいでイギリスの新しい時代の顔になることを過度に期待され、背負わされてるような印象もあった。
最初こそ方向性が定まらずに迷走したものの、2ndアルバムの頃にはしっかり方向性を確立したのはさすがだった。天は二物も三物も与えるものである。
さらにオアシスという好敵手が現れ、よりブラーの個性も際立った。オアシスが時流にぴったりとハマったラウドでメロディアスな剛速球ロックなら、ブラーは逆にイギリスらしいひねくれ方で多種多様な変化球を使い、流行の轟音ギターロックに(レコード会社からは強く薦められたらしいが)あえて背を向け、オーケストラやエレクトロ楽器を使って新たなブリティッシュ・ポップスを創り上げた。
オアシスがアメリカでも受け入れられたのに対して、ブラーはまったくアメリカでは売れなかったのはやはりあまりにもイギリス的であったからだと思う。
ブラーの徹底したイギリス志向・ポップス志向は、94年の『パーク・ライフ』の大ヒットで花開き、当時の〈ブリット・ポップ〉と呼ばれたムーヴメントのけん引役となり、象徴的存在となった。
なにしろ一筋縄ではいかないひねくれポップスなので、その聴こえ方や受け取り方もリスナーによってずいぶん違うだろう。わたしも正直な気持ちで好きな曲を選んだつもりだけれども、ブラーは特に人によって全然違う十人十色の選曲になるのではないかという気がする。
以下は、わたしが愛するブラーの至極の名曲ベストテンです。
There’s No Other Way
デビュー・シングル「シーズ・ソー・ハイ」が全英48位とやや不発に終わった後、全英8位と、ブラーにとって初めてのヒットとなった2ndシングル。
曲調は当時のイギリスで流行していたマッドチェスター風のダンス・ビートに、グレアムのオルタナ風ギターが絡むカッコいい出来だ。
The Universal
4thアルバム『ザ・グレート・エスケイプ(The Great Escape)』からのシングルで、全英5位のヒットとなった。
「これは本当に、本当に、本当に、起こりうることなんだ」と歌う、正直よくわからない内容の歌だけど、スタンリー・キューブリックの映画『時計仕掛けのオレンジ』の世界観を模しているらしい。白い服やデーモンの右目だけのアイラインはそのせいだ。
一見すごく楽し気で快適なユートピアのようなデストピアが未来の君を待ってる、ということを言いたかったのだろうか。
Popscene
1stと2ndの間にリリースされたアルバム未収録のシングル。全英32位とあまり成功しなかったシングルだが、ブラーが生き残る道を見つけた契機となった曲だとわたしは思う。パンク風のビートにポップなアレンジで、思いきりひねくれながらも潔くカッコいいブリティッシュ・ビート・ポップスだ。
Chemical World
ブラーの方向性を決定づけた2ndアルバム『モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ(Modern Life Is Rubbish)』からのしシングルで、全英28位。
レーベルから「アメリカ向けの曲を作れ」と指示されて作った曲らしいが、どこがアメリカ向けなのかわからない、まったくイギリスらしい独創的なひねくれポップスだが、キャッチーではある。米オルタナ・チャート27位と少しだけアメリカでも注目されたようだ。
Girls & Boys
ブラーの代表作となった名盤3rdアルバム『パーク・ライフ(Parklife)』からのシングル。全英5位の大ヒットとなった。ブラーの快進撃はここから始まったと言っていい。
ベースのアレックス・ジェームスによれば「ディスコ・ドラムと不快なギターとデュラン・デュラン風のベース」ということらしい。
ドラマーのデイヴ・ロウントゥリーもお気に入りの曲に挙げているが、彼はこの曲では叩いていない。ドラムマシンが使用されている。
For Tommorow
2ndアルバム『モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ』からのシングルで、全英28位。チャート的には大きなヒットとならなかったが、キンクスの影響も感じるような、伝統的な英国ポップスの再生は、ブラーの方向性を決定づけた重要なシングルだった。
Parklife
3rdアルバム『パーク・ライフ(Parklife)』からのシングル。全英10位。その年のブリット・アワードでシングル・オブ・ザ・イヤーとビデオ・オブ・ザ・イヤーを受賞した。
サッカーの試合会場で演奏される定番の曲にもなり、ブリット・ポップ・ムーヴメントを象徴する曲となった。
Tender
「新時代のアート・ロック」とも評される実験的要素の濃い6thアルバム『13』からのシングルで、全英2位のヒットとなった。
引き出しの多いブラーだが、この曲はめずらしいゴスペル風だ。一度聴いただけで覚えてしまうシンプルかつ印象に残るメロディ曲だ。
ギターのグレアムが弱弱しい声で歌うパートがまたいい。
End of a Century
3rdアルバム『パーク・ライフ(Parklife)』からのシングル。全英19位。
60年代のキンクスのコンセプト・アルバムに入っていてもおかしくないようなノスタルジックで美メロの名曲だ。
Song 2
5thアルバム『ブラー(Blur)』からのシングルで、全英2位のヒットとなった。
もともとラウドでロー・ファイなインディー・ロックを好んだグレアムの本領が発揮された曲。抑え込んでいたエネルギーがついに爆発したようなサウンドにカタルシスとロックの快楽を感じる。
入門用にブラーのアルバムを最初に聴くなら、ファンの選曲による『ザ・ベスト・オブ・ブラー』がお薦め。最初に聴くべき代表曲はほぼ網羅されています。
(by goro)