米ニュージャージー州出身のディオンヌ・ワーウィックは、1962年に「ドント・メイク・ミー・オーヴァー」でデビューした。この曲はハル・デヴィッド(作詞)&バート・バカラック(作曲)による作品で、二人とも白人である。
「ドント・メイク・ミー・オーヴァー」は全米21位のヒットとなり、ディオンヌはゴスペル出身にもかかわらず、その声がディープなソウルよりポップスに向いていると判断された。
以後ニューヨークで活動し、デヴィッド&バカラック作品を主に歌い、白人マーケット向けの黒人歌手として成功を収めた。
日本人のわたしにはこの「白人向け」だとか「黒人向け」だとかの違いが正直ピンと来ないけれども、当時のアメリカには厳然とその違いがあったのだろう。変な国だ。
しかし黄色人種であるわたしも、初めて聴いた瞬間にディオンヌの声に聴き惚れた。
セクシーというのともパワフルというのともまた違うし、あまり濃厚な表現をしない、クールで羽毛のように軽やかな声が、バカラックの印象深いメロディによく似合う。
ディオンヌはチェーン・スモーカーであることでも有名で、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズが彼女についてこう語ったことがある。
「ディオンヌ・ワーウィックはすごいチェーン・スモーカーなんだ。それであの声だ。おれももっとタバコを吸おうと思うぜ!(笑)」
彼女はそのうえ、ものすごい酒豪でもあるらしい。それでなんであの美声なのか、たしかに謎だ。
60年代はバカラック作品でヒットを連発し、70年代はスピナーズとの共演で全米No.1に、80年代は「愛のハーモニー」が大ヒットと、一時の流行だけで忘れ去られることなく、長きにわたって活躍を続けた。
2019年には78歳でアルバムをリリースし、2022年には81歳でツアーも行った。そして82歳となった昨年末にはイギリスのバラエティ番組で変わらぬ美声を披露している。まさに鉄人である。
以下はわたくしゴローが選ぶ、ディオンヌ・ワーウィックの至極の名曲ベスト5と、+1曲です。
Do You Know the Way to San Jose (1968)
songwriters : Hal David, Burt Bacharach
都会に出てきたものの成功しなくて、「生まれ育った田舎に戻ろう、心の安らぎはそこにあるから」と歌う歌だ。1968年に全米10位の大ヒットとなった。
日本ではこの曲はボサ・リオというブラジルのグループによるボサ・ノヴァ版がヒットしたらしいのだけど、ディオンヌの方がオリジナルである。
Heartbreaker (1982)
songwriters : Barry, Robin & Maurice Gibb
ビー・ジーズのギブ3兄弟がディオンヌの大ファンで、頼まれてもいないのに曲を書いて持ち込んだところ、採用されたという。
この曲を収録したアルバム『ハートブレイカー』は半分の5曲がギブ3兄弟の作で、ノルウェーでは10週連続1位という快挙となった。シングルは全米10位、全英2位。曲調がやはりヨーロッパ向きなのかな。
これぞ80年代というイントロで始まり、サビの印象的なメロディがいつ聴いても素晴らしい名曲だ。
I’ll Never Fall in Love Again (1969)
songwriters : Hal David, Burt Bacharach
アカデミー作品賞を獲得した映画『アパートの鍵貸します』の、ブロードウェイ舞台版用に書かれた楽曲。全米6位の大ヒットとなり、ディオンヌはグラミー賞最優秀女性歌唱賞を受賞した。
細かい起伏のややこしいメロディを、小鳥が囀るように軽快に歌うディオンヌのヴォーカルが絶品。
Walk On By
songwriters : Hal David, Burt Bacharach
5枚目のシングルとして発表され、全米6位の大ヒットとなった、ディオンヌ・ワーウィックのブレイク作。バカラックの代表作としても知られる名曲だ。
この曲にもカバー・バージョンがたくさんあるが、わたしは中でもアイザック・ヘイズの『ホット・バタード・ソウル』に収録された、12分に及ぶ大曲と化したカバーが異様すぎて大好きだった。好事家の方は、機会があればぜひ。
普通の方にはディオンヌ版だけで充分。
I Say a Little Prayer
songwriters : Hal David, Burt Bacharach
全米4位となった、ディオンヌ最大のヒット曲。これもいかにもメロディ・メーカーのバカラックらしい名曲として知られている。
日本でも当時ヒットし、邦題は「あなたに祈りをこめて」というものだったらしいが、なぜ変わったのかは知らない。
アレサ・フランクリンによるカバー・バージョンも、全米10位とヒットした。
日本でも南沙織や布施明などがカバーしている。
そして番外でもう1曲。
That’s What Friends Are For
songwriters : Carole Bayer Sager, Burt Bacharach
この曲はもともと1982年の映画『ラブ IN ニューヨーク』の挿入歌として、ロッド・スチュワートが歌ったものだった。
ディオンヌ・ワーウィックはこれを『フレンズ』というアルバムで、スティーヴィー・ワンダー、グラディス・ナイト、エルトン・ジョンを迎えて4人で歌った。このバージョンは全米1位となり、1986年の年間チャートでも1位となるメガ・ヒットとなった。
ディオンヌが4分の1しか歌っていないのであえてベスト5からは外したけれども、バカラックの最高傑作のひとつと言っても過言でないほどの素晴らしいメロディだ。
最初に歌うディオンヌの声が60年代の頃に比べると少しハスキーになり、その進化した魅力にあらためて惚れ惚れする。さらに、その後に続く3人もまた素晴らしい歌声を聴かせる。
またこの、久々のクラス会で再会したおじさんとおばさんたちがはしゃいでイチャイチャしているようなPVも素敵だ。
以上、ディオンヌ・ワーウィック【名曲ベスト5】Dionne Warwick Greatest 5 Songsでした。
(Goro)