Television
Venus (1977)
N.Y.パンクの最高傑作のひとつ『マーキー・ムーン』からもう1曲。
この曲は歌メロもいいけれども、トム・ヴァーレインのシャリ~ンという現実感のない響きのギターと、リチャード・ロイドの艶めかしい響きのギターの共鳴と絡み合いがまた、刺激的で官能的である。この世のものではないあの世のもののような世界観に陶然とした気分になる。
「ミロのヴィーナスの腕の中に身を投げたのさ」と歌う耽美的な歌詞や(ミロのヴィーナスにはもちろん腕は無い)、サビの部分のリード・ヴォーカルとコーラスによる
「落ち込んだのかい?」
「いや、全然」
「はあっ?」
という、なんとも不思議な掛け合いも面白い。
トム・ヴァーレインと言えば当時は誰も使っていなかったフェンダー社の「ジャズマスター」というギターを愛用していたことでも知られる。フェンダーならテレキャスかストラトというのが主流のロック界でジャズマスターなんぞを使っている人はめずらしく、ちょっとした変人のようだった。
このギターはフェンダー社が、ギブソンの使い手が多かったジャズ畑にも販路を拡げて行こうと企み「ジャズ専用機」として開発したものの、ジャズ界ではほとんど見向きもされずに失敗に終わった。口の悪いわたしの友人などは、「産廃ギター」と呼ぶほどだった。
しかしトム・ヴァーレインが使ったことで、彼らをリスペクトするソニック・ユースのサーストン・ムーアをはじめ、ダイナソーJr.のJ・マスシス、カート・コバーン、マイブラ、ペイヴメント、レディオヘッドなど、90年代オルタナ勢がこぞって使う人気機種となっていった。
トム・ヴァーレインは後に、そもそもなぜジャズマスターを選んだのかと理由を訊かれて、「安かったから。90ドルだった」と答えている。
(Goro)