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Patti Smith Group
Easter (1978)
前作『ラジオ・エチオピア』から1年5ヶ月ぶりとなった、パティ・スミスの3rdアルバムだ。
前作から少し間が空いたのは、1977年1月にフロリダ州タンパでのライブ中に、4メートル半の高さから落下し、頚椎を骨折する重傷を負ったためだった。
77年というパンク・ムーヴメントが最大の盛り上がりを見せた時期に、長期療養を余儀なくせざるを得なかったことはさぞ悔しく、焦燥感に駆られたことと思う。その意味で満を持しての復帰作となった本作は、充電しすぎて熱々になっているエネルギーを一気に解放したかのような、パワー全開のアルバムとなった。
前作までにはなんとなく感じた、「本業は詩人ですが」という前置きを捨て去り、「アタシはロックシンガー!」という決意表明のように、バンドの力強い演奏すら圧倒するように、野獣のように咆哮し、激しく歌いまくる。
前作から「パティ・スミス・グループ」名義となったが、あらためて自分のバンドを結成したのは、より「強い」サウンドを求めてのことだったという。あるとき自身の曲がラジオから流れてきたのを聴いたときに「音が弱い」と感じたことがそのきっかけになったらしい。
1978年3月にリリースされた本作は、パティ・スミスの理想とするロック・アルバムの完成を見た、パティ・スミス・グループの最高傑作と言えるだろう。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 ティル・ヴィクトリー
2 スペース・モンキー
3 ビコーズ・ザ・ナイト
4 ゴースト・ダンス
5 ベイブローグ
6 ロックン・ロール・ニガー
SIDE B
1 プリヴィレッジ
2 ウィ・スリー
3 25階
4 ハイ・オン・リベリオン
5 イースター
A3「ビコーズ・ザ・ナイト」はブルース・スプリングスティーンとの共作で、パティ・スミスにとって初めて全米シングル・チャート入りを果たして13位まで上昇し、イギリスでも5位まで上がるヒットとなった。アルバムも全米20位、全英16位と、全キャリアにおいて最も商業的成功を収めたアルバムとなった。
また、本作のもうひとつのハイライトとなっているのが、A5の「確かなこと、わかりきってることは、今まであんまりファックしてこなかったけど、これからはいっぱいファックするわ」で始まる詩の朗読から一気になだれ込むA6「ロックンロール・ニガー」だ。
英語圏では禁止用語の代表格で、黒人に対する差別的なワード「ニガー」を連呼する激烈な曲だ。
あの子は黒い羊
あの子は娼婦
あの子はロックンロール・ニガージミ・ヘンドリクスもニガーだった
キリストもおばあちゃんも
ジャクソン・ポロックもニガーだった
ニガー、ニガー、ニガー、ニガーこの社会の外側で
彼らは私を待っている(written by Patti Smith)
パティ・スミスは「ニガー」という言葉を、「常識を超える突然変異的な超人であり、社会においては異端であり、しかし圧倒的にパワフルで強い存在」として再定義して使用しているということだ。ネガティヴなワードをあえて真逆のポジティヴな意味で使うという手法は、最近の日本語における「ヤバい」とか「クソかっこいい」みたいな使い方に少し似ているかもしれない。
また、シカゴ出身のパティは、子供の頃から黒人と一緒に育った自分には「ニガー」という言葉は「差別的な意味ではなく、日常的にリスペクトを込めて使っていた言葉だ」と語っている。そして「ユーモアであることも理解してほしい」とも語っている。
そもそもこんな歌を歌っても批判に晒されないのはロック界広しと言えども、パティ・スミスぐらいだろう。パンクの女王の面目躍如だ。それは彼女の、言葉に対する深い洞察と知性、理不尽な差別に対する憎悪、多様性への理解を誰もがわかっていたからだろう。
ただし残念ながら、現代の音楽配信サービスにおいては、タイトルは表示されても聴くことはできないようになっている。
もはや文脈など理解されることなく、言葉は表面的な判断で排除され、作品も思想も丸ごと消されていく時代になっていることを実感する。
CDにはまだ収録されているが、それももう今のうちだけかもしれない。
あっ、もしかしてこの記事も消されたりするのかな?
↓ 全米13位のヒットとなったブレイク作「ビコーズ・ザ・ナイト」。
↓ 「ロックンロール・ニガー」。これが聴けるのももう今のうちだけかもしれない。
(Goro)