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Marvin Gaye
“What’s Going On” (1971)
真に革新的な音楽というものは、たとえ50年が経過しようとも、未だに「新しく」聴こえるものだ。
ベトナムから帰還した実弟から聞いた戦場の凄絶な実態、街角では反戦デモに対する警官隊の過激な暴力行為、混迷を深める社会状況に対して「いったい何をしてる? 何が起こってるんだ?」と、怒りに満ちた問いかけを繰り返す本作のタイトル曲がレコーディングされたとき、モータウン・レコードの社長ベリー・ゴーディはその曲をリリースすることを拒んだ。
しかしマーヴィン・ゲイも退かず、この曲をリリースしないなら、これ以上1曲も録音しないと宣言して対抗した。
結局は社長が折れ、1971年1月にシングル「ホワッツ・ゴーイン・オン」がリリースされると、全米2位の大ヒットとなり、それを受けてアルバムの録音が再開された。
アルバムの制作は常識を覆すものだった。それまでのモータウンの伝統であった「分業制」をマーヴィン・ゲイは無視し、自身で曲を書き、そして歌い、プロデュースも自身で務めた。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 ホワッツ・ゴーイン・オン
2 ホワッツ・ハプニング・ブラザー
3 フライン・ハイ
4 セイヴ・ザ・チルドレン
5 ゴッド・イズ・ラヴ
6 マーシー・マーシー・ミー
SIDE B
1 ライト・オン
2 ホーリー・ホーリー
3 イナー・シティ・ブルース
都市における貧困や退廃、治安の悪化、環境汚染、ドラッグの蔓延、遺棄される子供たちなど、当時のアメリカの深刻な社会状況が歌われている。
シリアスな内容もさることながら、しかし本作が何より画期的だったのはそのサウンドだ。
初めて聴いたときはその音場の空間的な拡がりに、ゆったりと響き渡るようなサウンド、美しいアレンジと心に染みるコーラス、ヴォーカルのやわらかで清々しい響きに新鮮な感動を覚えたものだった。これ以前のソウルやR&Bとは似ても似つかない音楽である。
全米6位と商業的にも成功したこの革新的なアルバムは「ニュー・ソウル」と評され、ブラック・ミュージックの新しい扉を開いた。当時から「史上最高のソウル・アルバム」とも評されたが、それは50年が経過した現在でも変わらないと思う。
そして本作が今でもまだ新鮮に聴こえるとすれば、その唯一無二の音楽空間を体験できるサウンドだけでなく、歌われている渾沌とした社会状況に、今の日本が急速に近づきつつあるというリアリティのせいかもしれない。
↓ 全米2位の大ヒットとなった名曲「ホワッツ・ゴーイン・オン」。
↓ 環境汚染をテーマにした内容で、全米4位のヒットとなった「マーシー・マーシー・ミー」。
(Goro)