1961年にモータウン・レコードからデビューしたマーヴィン・ゲイはヒット曲を連発した。
そして1971年発表の名盤『ホワッツ・ゴーイン・オン』では、〈ニュー・ソウル〉と評された革新的な音楽を創造し、ヴォーカリストとしては大胆にスタイルを変え、さらに作曲家として、サウンドメーカーとして、プロデューサーとしても才能を開花させた。
それまでのモータウンではそれらが完全分業制になっていたレコード制作を、アーティストのヴィジョンを強く反映させ、歌のテーマとそれに合った独自のサウンドや音楽スタイルを追求するその姿勢は、後進のアーティストたちにも大きな影響を与えた。
また、ベトナム戦争、反戦運動に対する警察の暴力的抑圧、根深く残る人種問題、ドラッグや児童遺棄、環境問題など、それまでのR&Bにはなかった、シリアスな社会問題に向き合うリアルな歌詞も衝撃を与えた。
その後はアルバムごとにテーマを変え、愛やセックスを赤裸々に歌ってセックス・シンボルとなったり、しかしその裏では結婚生活が破綻して泥沼離婚調停を争い、その事情を詳細に歌う内容のみでアルバムを1枚作ったりもした。
プライベートでは鬱病の発症や薬物依存、人気の低迷、そして破産など、カッコ良くもあればカッコ悪くもある、全部まとめてとにかく人間臭いアーティストだった。
1984年4月、マーヴィン・ゲイは自宅で両親の喧嘩を止めようとして、激昂した父親に銃で撃たれて死亡した。44歳だった。その銃はマーヴィンが父親にプレゼントしたものだったという。アーティストの死因では、これ以上に悲しく、やりきれない話もないだろう。
以下はわたしがお薦めする、最初に聴くべきマーヴィン・ゲイの至極の名曲5選です。
I Heard It Through the Grapevine
恋人が自分を捨てようとしていると人づてに聞いてショックを受け、心配で頭がおかしくなりそうだと歌う曲。
最初に録音したのはスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズだったが、マーヴィン・ゲイのバージョンは自身初となる全米1位の大ヒットとなった。
ロックファンにはC.C.R.によるカバーもよく知られている。
Ain’t No Mountain High Enough
同じモータウン所属の女性歌手タミー・テレルとのデュエット作で、全米19位のヒットとなった。
2人はデュエット・パートナーとして3枚のシングルと1枚のアルバムをリリースしたが、タミー・テレルは脳腫瘍に侵され、この3年後に24歳の若さで死去した。
What’s Going On
当時の社会状況を憂うリアルな歌詞と斬新なサウンドによる新時代のコンセプト・アルバムとして〈ニュー・ソウル〉の旗印となった名盤『ホワッツ・ゴーイン・オン』のタイトル曲。全米2位の大ヒットとなった。
「以前の僕はあまりに大声で歌いすぎていた」と語ったように、ヴォーカルの柔らかく優しい歌い方が、すべてを包み込むようなスケールの大きなサウンドによく合っている。だから聴いた瞬間に誰もが感動するのだろう。
Let’s Get It On
社会問題を歌った前作から一転、愛と性的欲求を直截的に歌い上げた名盤『レッツ・ゲット・イット・オン』のタイトル曲。全米1位の大ヒットとなった。
厳格な牧師の父の下で育ったマーヴィンが長年抑え続けてきた想いの爆発とも考えられるが、これ以降彼は、女性たちにとってのセックス・シンボルにもなった。
I Want You
『ホワッツ・ゴーイン・オン』と並ぶ傑作としてファンに愛されている名盤『アイ・ウォント・ユー』のタイトル曲。
ストリングスが印象に残るアレンジと、囁くように歌うクールなヴォーカル、都会的なサウンドがカッコいい。艶やかな雰囲気に満ちた名曲だ。
最初にマーヴィン・ゲイのアルバムを聴くなら、もちろんベスト盤でもいいのだけれど、特にロックファンには歴史的名盤『ホワッツ・ゴーイン・オン』を聴くことをお薦めしたい。
唯一無二の独特の音空間を創り出しているあのサウンドは、アルバム1枚を通して一度経験してみて欲しいと思うのだ。
選んだ5曲を続けて聴けるYouTubeプレイリストを作成しましたので、ご利用ください。
♪プレイリスト⇒はじめてのマーヴィン・ゲイ【必聴名曲5選】はこちら
ぜひお楽しみください。
(Goro)