ヒストリー・オブ・ロック 1982【MTV革命】Greatest 10 Songs

スリラー

1982

1981年8月に開局したアメリカのケーブルチャンネル《MTV》は、80年代のロック&ポップス・シーンを根底から変えてしまった。

それまでライヴというイベントを除いては、日常的にはレコードやカセット、ラジオで「音」だけを楽しむのがあたりまえだったロックやポップスは、ミュージック・ビデオの登場によってその「映像」によっても評価され、セールスに大きな影響を及ぼすようになった。

79年にバグルスが「ラジオスターの悲劇」で予言したように、「ビデオがラジオのスターを殺す」という歌詞が、現実のものとなったのだ。

そしてその流れを急加速させたのがこの年の暮れにリリースされた、マイケル・ジャクソンのアルバム『スリラー』だった。

それまで考えられなかった規模とクオリティの画期的なミュージック・ビデオを制作して音楽界に衝撃を与え、それまで「白人アーティストのミュージック・ビデオしか放映しない」という恐るべき方針を掲げていたMTVが、初めて黒人アーティストのミュージック・ビデオを放映したのがこの「スリラー」だった。マイケル・ジャクソンは、人種の壁を打ち破ったのだ。

そしてアルバムの売り上げは全世界で7,000万枚という、現在でも破られていないギネス記録となった要因には、アルバム中のいくつかの凝りに凝ったミュージック・ビデオがMTVによってヘビー・ローテーションされたことが強力な後押しとなったことは間違いないだろう。

そして良くも悪くも、ミュージック・ビデオとMTVという新しいメディアが80年代のロック・シーンにも甚大な影響を及ぼしたのは間違いない。

ただし当時わたしは、ミュージック・ビデオというものにあまり興味を惹かれなかった。

日本でも「スリラー」は大ヒットしていたけれども、この曲がなぜそんなに人気なのかわたしにはよくわからなかった。
しばらくしてからそれが、キレの良いダンスや、特撮を駆使したホラー仕立ての映像によるものだと気づくという鈍感ぶりだったぐらいだ。ダンスや特撮になんの興味もなかったからだろう。

そしてこの年は、1977年にデビューしてパンク・ムーヴメントを牽引したザ・クラッシュとザ・ジャムが、どちらも飛躍的な音楽的成長を遂げ、セールス面においてもその絶頂期で解散するという、まさに一つの時代の終わりを象徴するような出来事もあった。

そしてわたしはと言うと、たったの15歳で無謀にも社会へ飛び出し、仕事に就いたり、逃げ出したりを繰り返しながら、なんの計画も未来予想図もないまま、ひたすら迷走していた。
そしてなぜか当時のロックやポップスがあまり好きになれず、60年代の音楽を聴き始めた。ビートルズだの、ストーンズだの、ディランだの。社会から落ちこぼれたうえに、時代にも乗り損なってしまったのだから、もはやどうしようもない。なんだか淋しいけもの道を独りで歩いているような気持だった。

以下はそんな、MTV時代の始まりを告げた1982年を象徴する、10組10曲を選んでみました。

マイケル・ジャクソン/スリラー
Michael Jackson – Thriller

スリラー

これがMTVの人種の壁を打ち破り、良くも悪くもMTVがスターを作る時代の幕開けとなった、ミュージック・ビデオ史上の金字塔。
これをきっかけにマイケル・ジャクソンは世界的スーパー・スターとなり、史上最高のポップスターの称号を得るまでに成長する。

ちなみにこの動画のYouTubeの再生回数は現時点で8億3千万回。40年前の作品だが、時代を超えて愛され続けているのだ。

Michael Jackson – Thriller (Official 4K Video)

プリンス/リトル・レッド・コルヴェット
Prince – Little Red Corvette

1999 -Coloured- [Analog]

マイケル・ジャクソンとはまたまったく違うやりかたで人種の壁を超え、ジャンルの垣根を楽々と超えた孤高の天才プリンスの、初のトップ10ヒットとなった初期の代表曲のひとつ。

最新のサウンドで、ロック、シンセ・ポップス、R&B、ファンク、ダンス・ミュージックなど様々な要素を包含し、大衆性と実験性を両立させた、新時代のミクスチャー・ロックと言える音楽性は衝撃を与えた。

Prince – Little Red Corvette (Official Music Video)

ジョン・クーガー/ジャック&ダイアン
John Cougar – Jack & Diane

American Fool (Rpkg)

全盛期に度々改名してわれわれを混乱させた米インディアナ州出身のシンガー・ソングライターが、ジョン・クーガーと名乗っていた時代に全米1位となり、一躍大ブレイクとなった代表曲。

カントリー・ロックに80年代サウンドの味付けをうまく施すことによって、昔ながらのアメリカン・ロックの魅力と新鮮な響きとがちょうど良い加減となった成功作だ。

John Mellencamp – Jack & Diane (Official Music Video)

TOTO/アフリカ
Toto – Africa

TOTO IV~聖なる剣(期間生産限定盤)

耳に心地よいサウンドと大衆的な音楽性で世界的なメガヒットを連発したために、その昔は”産業ロック”などと、揶揄するような言い方で括られたこの種のロックだが、わたしはそんな僻みっぽい名称もどうかと思うので、ここでは“ウルトラ・ポピュラー・ロック”、略してウルポピと勝手な造語で言い換えることにする。

そのUPRの代表格の一組が、L.A.出身のTOTOだ。
この曲は全米1位となった大ヒット曲。ちなみにこの動画のYouTube再生回数は7億7千万回。凄いな。マイケルに迫る勢いだ。ウルトラ・ポピュラー・ロックも時代を超えて普遍的な支持を得ているのである。

Toto – Africa (Official HD Video)

エイジア/ヒート・オブ・ザ・モーメント
Asia – Heat Of the Moment

詠時感~時へのロマン~ [Analog]

元キング・クリムゾン、元イエス、元エマーソン・レイク&パーマー、元バグルスという、プログレ界の雄たちが結集した英国製ウルトラ・ポピュラー・ロック・バンドの1stシングル。

パンク革命によって失業してしまった元プログレ勢がひと山当てようと企んだ感がすごいが、しかしその目論見通り(なのかどうか知らんけど)、このシングルは全米4位、そしてアルバム『詠時感〜時へのロマン』は9週連続全米1位ととんでもないメガ・セールスを記録した。日本でも洋楽ながらオリコン15位の大ヒットとなった。そりゃもう、売れれば勝ちである。

ちなみにこの曲のAメロはバグルスの「ラジオスターの悲劇」と同じだが、そこはたぶん意図してのものなんだろう。

Asia – Heat Of The Moment (Video)

デュラン・デュラン/リオ
Duran Duran – Rio

リオ

80年代サウンドとMTV時代を象徴した、時代の寵児と言っても過言ではない、英国ニュー・ロマンティックの代表格。

この曲は彼らの出世作となった2ndアルバムのタイトル曲。斬新なサウンドと完成度の高いキャッチーな音楽性、そしてヴィジュアルも含めて、まさに革新的だった。

Duran Duran – Rio (Official Music Video)

カルチャー・クラブ/君は完璧さ
Culture Club – Do You Really Want to Hurt Me

KISSING TO BE CLEVER [12 inch Analog]

今の時代ならキレイめの女装男子なんてめずらしくもなんともないけれども、40年前のこの当時にこのボーイ・ジョージはなかなかの衝撃だったものだ。この当時、MTV時代の恩恵に最もあずかったのはアメリカではマイケル・ジャクソン、イギリスではこのカルチャー・クラブだったのかもしれない。

この曲は彼らの1stアルバムからのシングルで、全英1位、全米2位、その他世界中のチャートで上位を席巻し、世界的なヒット曲となった。
今あらためて聴いても、抑制されたアレンジも美しい、ブルー・アイド・ソウルの名曲だ。

Culture Club – Do You Really Want To Hurt Me

XTC/センシズ・ワーキング・オーヴァータイム
XTC – Senses Working Overtime

English Settlement -Hq- [Analog]

英国ひねくれポップで知られる、アンディ・パートリッジを中心にしたXTCの初期の代表曲。

もし彼らが60年代に活躍していたら、キンクスをもっとマニアックにしたようなアルバムを作っていたかもしれないし、70年代ならキング・クリムゾンを超えるような楽しいプログレをやっていたのかもしれない。

80年代なのでこういう音楽性になったわけだけれども、結局いつの時代にデビューしたとしても、唯一無比の存在になったことは間違いないだろう。

XTC – Senses Working Overtime (Official Video)

デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ/カモン・アイリーン
Dexy’s Midnight Runners – Come on Eileen

カモン・アイリーン

英国バーミンガム出身のデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズの世界的ヒット曲。

新鮮だがどこか懐かしい響きのケルティック・サウンドが、お祭り騒ぎ的に繰り広げられる。日本でもヒットして、当時よくこのオーバーオールたちのPVをTVで見たものだ。

dexys midnight runners come on eileen

ザ・ジャム/ビート・サレンダー
The Jam – Beat Surrender

Beat Surrender

1977年にデビューして一時代を築き、驚異的な音楽的成長を遂げたザ・ジャムは、この曲をラスト・シングルとして発表し、全英1位となり、キャリアの絶頂で解散した。

そして奇しくも同じ年にデビューし、共にパンク・ムーヴメントを牽引したザ・クラッシュもこの年のアルバム『コンバット・ロック』発表後に分裂し、セールス的には絶頂期だったが、実質的な解散となった。

パンク~ニュー・ウェイヴの時代に幕が下ろされ、ひとつの時代が終わりを告げた、象徴的な出来事だった。

The Jam – Beat Surrender

選んだ10曲がぶっ続けで聴けるYouTubeのプレイリストを作成しましたので、ご利用ください。

♪YouTubeプレイリスト⇒ ヒストリー・オブ・ロック 1982【MTV革命】Greatest 10 Songs

ぜひお楽しみください。

(by goro)