1976
イーグルスが「ホテル・カリフォルニア」で歌った、”spirit”を「酒」と「精神」の両方にかけて「1969年からこっち、ここにはそんなものあーりゃしません」と歌ったのは、まさにこの時代のロック・シーンを象徴していた。それは、60年代には世界で最も熱いロック・シーンの中心地だった米西海岸は、70年代になってすっかりその精神が失われてしまった、と解釈できるものだった。
決してロックが廃れたわけではなく、逆に最盛期を迎えて百花繚乱の様相を呈した70年代ロックは、良くも悪くも巨大産業と化したのだ。
ロックという音楽が市民権を得て、世界中で幅広い世代が楽しむようになったことで、1,000万枚を超えるメガセールスとなるレコードも次々に生まれ、莫大な富を生む巨大産業へと成長した反面、60年代のロックにあった、既成の価値観に異を唱え、自由と抵抗の音楽としてのスピリットはたしかに失わつつあったのだ。ロックもまた商業ベースに乗り、賢い大人たちの営業力の下、親しみやすく、幅広い層に支持されるような”商品”を生産する方向へと変わっていったのだった。
しかしここで、その巨大化した成長産業に異を唱える、ロックの歴史上初めての”クーデター”が起きた。それがパンク・ロックだった。
パンク・ロックは、巨大産業化してでっかく膨らみすぎたロックに、安全ピンの針をプスッと突き立ててBANG!とパンクさせたようなものだった。
それはロックの原点回帰であり、再びロックは刺激的で、スリリングで、リアリティに溢れ、アブなくてヤバい音楽へと立ち還ったのだ。
そんな、スピリットが失われかけたロック・シーンに革命の合図が轟いた1976年を象徴する10曲です。
Eagles – Hotel California
「1969年以降、スピリットは失われてしまった」と歌ってロックファンの胸に深く突き刺さったこの曲は、その美しいメロディと斬新なサウンドも相まって全米1位となった。アルバムは全世界で3,200万枚を売り上げるメガ・ヒットとなり、皮肉なことにイーグルス自身もまた巨万の富を生む”商業的成功”から逃れることはできなかったのだ。
Peter Frampton – Show Me The Way
元ハンブル・パイのギタリスト、ピーター・フランプトンの『フランプトン・カムズ・アライヴ!』からのシングル。アルバムは10週連続全米1位という快挙を成し遂げ、累計で1,600万枚を売り上げ、現在でも最も売れたライヴ・アルバムとして記録を保持している。
正直、聴いてみてもこれがなぜそんなに売れたのかわたしにはよくわからないが、それこそがいろんなタイプのロックが賑やかに咲き誇った百花繚乱の時代ということなのだろう。
ギターの音がフランプトンの口から出ているように聴こえるのは、当時流行したトーキング・モジュレーターという機械によるものだ。
Boston – More Than a Feeling
ボストンは、その名の通り米ボストン出身のバンドだ。トム・ショルツというマサチューセッツ工科大学出身の秀才みたいなミュージシャンがひとりで作った1stアルバム『幻想飛行』は全米3位の大ヒットとなり、全世界で2,500万枚を売り上げるメガヒットとなった。この曲はアルバムからのシングルで、これも全米5位の大ヒットとなった。
Thin Lizzy – The Boys Are Back In town
シン・リジィは1970年にデビューした、アイルランドのバンドだ。
ツインギターで2人ともレスポールだぜっ、ていうのが彼らの看板だ。バンドの中心人物フィル・ライノット(ヴォーカル&ベース)の書く曲はハード・ロック・サウンドながら、ポップなメロディが魅力だ。
The Runaways – Cherry Bomb
米ロサンゼルス出身のランナウェイズは、ロック史上初のメンバーが女子だけのロックバンドだ。しかもデビュー当時は平均年齢17歳、ヴォーカルのシェリーは15歳で、ステージではランジェリー姿の大股開きで歌った。これぞロックンロールだ。今では絶対許されないだろうけど。この曲は彼女たちのデビュー・シングル。日本でも大人気だった。
Jackson Browne – The Pretender
ジャクソン・ブラウンがウエストコースト・ロックの中心に躍り出た4thアルバム『ザ・プリテンダー』のタイトル曲。私的で日常的でありながらも普遍的な共感を呼ぶ詩人であり、心に訴えかけるロック・シンガーとして、東のスプリングスティーンに対して、西のジャクソン・ブラウンとも当時は呼ばれた。プロデューサーはスプリングスティーンを「ロックンロールの未来」と評したジョン・ランドゥだ。クリアでぜい肉の無い、心に直接響くようなシンプルなサウンドが素晴らしい。
Tom petty & the Heartbreakers – American Girl
トム・ペティは米フロリダ州出身だが、敬愛するバーズやバッファロー・スプリングフィールドの地元であるロサンゼルスに移住して活動した。彼の音楽は60年代に生まれたアメリカン・ロックの原点に立ち還るものだった。サウンドは違っても、彼のそのアティテュードはパンクに極めて近いと言えるだろう。
Ramones – Blitzkrieg Bop
西海岸では失われていたらしいロックのスピリットは、東海岸のニューヨークで今まさに燃え上がろうとしていた。ジョーイ・ラモーンによれば「ヘイ!ホー!レッツゴー!」の掛け声は「革命の合図」なんだそうだ。
まさにこの合図によって、パンク・ロック革命がスタートしたのだ。
Damned New Rose
イギリスで一番最初にレコードを出したパンクバンドがこのダムドで、それがこの「ニュー・ローズ」のEP盤だ。激しい曲でありながらどこか醒めたヴォーカル、ラウドなギター、メチャクチャなのに超カッコいいドラム、嵐のようなパンク・ロックだ。
Sex Pistols – Anarchy In The UK
そして、パンク革命の主役の登場だ。平均年齢20歳のクソガキたちによる、この衝撃のデビュー・シングルが、一瞬にしてロックの歴史を変えてしまった。様々なカルチャーにもパンクの火の粉は飛び火し、まさに世界を変え、多くの若者の人生を変えてしまった。もちろん、わたしもそのひとりだ。
選んだ10曲がぶっ続けで聴けるYouTubeのプレイリストを作成しましたので、ご利用ください。
♪YouTubeプレイリスト⇒ ヒストリー・オブ・ロック 1976【失われたスピリットと革命の合図】Greatest 10 Songs
ぜひお楽しみください。
(by goro)