デヴィッド・ボウイ/流砂 (1971)【’70s Rock Masterpiece】

【70年代ロックの名曲】
David Bowie
Quicksand (1971)

デヴィッド・ボウイの1971年の名盤『ハンキー・ドリー』収録曲であり、ダイナソーJr.が1991年にリリースしたEP「ワゴン」に、この曲のカバーが収録されていたものだ。

わたしは先にボウイのオリジナルを聴いていたはずなのだけれど、たぶんピンと来ていなかったのだろう、このダイナソー版で、「こんなに良い曲だったんだ!」と気づいたのだった。

今聴いてみても、ボウイのオリジナルは、ちゃんと手が込んでいて完成度も高く、一聴してわかる名曲だ。
でも、当時のわたしにはJ・マスシスが疲れ果てたような頼りない声で「僕にはもう、力が残ってないんだ」「自分を信じてはいけない」と歌うほうが刺さるものがあったのだろう。

その当時のわたしは、やりたいことが曖昧になり、やるべきことがわからなくなり、夢と現実逃避の違いもよくわからなくなっていた頃だった。1991年、わたしが25歳の頃の話だ。

夜中にベッドでこの曲をヘッドホンで聴きながら、生き物のように流れる流砂に身を任せるイメージは、このままどこかに運んで行ってくれればいいのに、と怠惰な気持ちで考えると同時に、いったいどこへ運ばれて行くのかわからない不安に苛まれる。

あれから30年。

たぶん、あの頃のわたしが逆に一度も想像しなかったような、なんということもない生活を細々としている。
残念ながら、お金持ちにはなれなかったし、何かで名を残すような人物にもなれなかったが、衣食住には事足りているし、五体満足で、病気もしていない。結婚して娘がいて、犬もいる。

そんなに悪い生活ではないけれど、25歳のわたしが知ったらゾッとするほどつまらない人生だと思うかもしれない。

そうかもしれないけれど、これでもまだおまえにしては上出来の方なんだよ、と身の程知らずで血気盛んなわりに中身が空っぽのあの頃のわたしに優しく諭してあげたいものだ。

↓ デヴィッド・ボウイ『ハンキー・ドリー』収録のオリジナル。

↓ ダイナソーJr.が1991年にリリースしたEP『ワゴン』に収録のカバー。

(Goro)