暑苦しくてもダサくても、熱いロックを欲していた 〜ブルース・スプリングスティーン『ボーン・イン・ザ・USA』(1984)【最強ロック名盤500】#310

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⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#310
Bruce Springsteen
“Born In The U.S.A.” (1984)

家人が出かけるのを見計らい、もう何十年ぶりかの本作を、最初から最後まで爆音で聴いてみた。

シンセサイザーで奏でられるメロディと、バシャン!と派手に打ち鳴らされるゲート・リヴァーブ・ドラム。大流行した80年代サウンドのまさに見本のようなオープニングの「ボーン・イン・ザ・USA」のイントロだ。「懐かしいなあ」と思うのと同時に「ダサいなあ」とも思う。でも当時はもちろん「カッコいいなあ」と思って聴いていたのだ。

当時わたしは17歳で、地元の駅前をほろほろと徘徊していたり、電車で1時間の距離の名古屋の街をねらねらと彷徨していた。

仕事を探していたり、本やレコードを探していたり、女の子を探していたり、なんでもいいから現状を打破するものを探していたりしたものだ。あてどもなく。

わたしが見つけられるのはせいぜい本やレコードだけだ。この先どんなふうに生きていくのかが一向に見えてこない。なのでわたしは本やレコードを頼みの綱として、そこから無理やりこの先の生き方を見つけ出そうとしていた。それはあまりに短絡的すぎ、あまりに浅薄であるために間違いを重ね、迷走と遁走を重ねることになるのだけれども。

それにしても変な宗教や変な闇仕事などに引っかからないでよかった。きっとあの頃なら、現状を変えられるのであればなんでもやりかねなかった。

わたしが引っかかったのが変な宗教や闇仕事ではなくブルース・スプリングスティーンだったのはまだ幸いだった。彼の歌は、アメリカの田舎町の、うんざりするほど退屈な生活、仕事に対してほんのわずかな楽しみしか得られない、克服不可能な閉塞感を感じているリアルな人々が描かれていた。人生を諦めることを悟ったり、すべてを投げ出して別の居場所を探すことを選んだり、あるいは重大な罪を犯す道を選んだりする物語が、独特のしわがれ声で歌われる。

そんな歌にわたしは共感していたのだ。17歳の小僧にそんなに深い意味がわかっていたわけではないけれども、ずっと居場所を間違えているような居心地の悪さみたいなものに共感したのだろうと思う。

本作はブルース・スプリングスティーンの7枚目のアルバムとして、1984年6月にリリースされた。7枚のシングル・ヒットが生まれ、アルバムは爆発的に売れた。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 ボーン・イン・ザ・U.S.A.(全米9位・全英5位)
2 カヴァー・ミー(全米7位・全英16位)
3 ダーリントン・カウンティ
4 ワーキング・オン・ザ・ハイウェイ
5 ダウンバウンド・トレイン
6 アイム・オン・ファイア(全米6位・全英5位)

SIDE B

1 ノー・サレンダー
2 ボビー・ジーン
3 アイム・ゴーイン・ダウン(全米9位)
4 グローリィ・デイズ(全米5位・全英17位)
5 ダンシン・イン・ザ・ダーク(全米2位・全英4位)
6 マイ・ホームタウン(全米6位・全英9位)

「ボーン・イン・ザ・USA」は、ベトナム帰還兵の歌だ。彼は身体と心に傷を負って母国に還ってきたものの、疎外感を感じ、故国に幻滅する。「ボーン・イン・ザ・USA!」と繰り返し歌われるリフレインは、誇りを込めて、怒りを込めて、悲しみを込めて、絶望を込めて歌われる。

しかしこの歌は、歌詞をあまりよく聴いていない人々によって、単に愛国心旺盛なマッチョ野郎の歌だと広く誤解された。その最も象徴的なものとして、レーガン大統領の演説が有名だ。彼はこう言ったのである。「アメリカの未来は、皆さんの心にある無数の夢の中にあります。それは、多くの若いアメリカ人が憧れる男、ニュージャージー州出身のブルース・スプリングスティーンの歌に込められた希望のメッセージの中にあります。皆さんの夢の実現を支援すること、それが私の仕事のすべてです」

しかしそう誤解させた原因のひとつには、このド派手なアレンジもあったと思う。本作の楽曲は、歌詞の世界観はそれまでのスプリングスティーンとほとんど変わっていない。しかし大きく変わったのが派手なシンセサイザーであり、大砲のように賑やかなドラムであり、リバーブをかけすぎてリアリティが失われている歌声だった。

楽曲は、これまでで最高のものが揃っている。最高の楽曲たちが流行の派手な衣装をまとったために、爆発的に売れた。世界各国でチャート1位を獲得し、3,000万枚を超すメガ・ヒットとなった。しかし、流行の派手な衣装はメッセージに誤解を生み、そして流行遅れとなるや、何よりもダサい衣装となってしまった。

なんと言うか、派手にやらかしちゃったアルバムではあると思う。あらためて「名盤」に挙げることをちょっとためらってしまうぐらいに。

でも、あの時代、こんなに熱いロックをやってるのは彼しかいなかったのだ。

暑苦しいとか、ダサいとか、当時から散々言われていたけれども、17歳のわたしは、クールなロックやおしゃれなロックじゃなくて、とことん熱いロックを欲していたのだ。

↓ 本作からの最初にシングル・カットされ、全米2位、全英4位の大ヒットとなった「ダンシング・イン・ザ・ダーク」。

↓ 本作中でわたしが一番好きな曲が「ダウンバウンド・トレイン」。歌詞の世界もこれぞスプリングスティーンといった内容だ。

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