Bob Dylan “The Basement Tapes”
ディランは『ブロンド・オン・ブロンド』のリリース直後の1966年7月に、バイク事故を起こして脳震盪と脊椎損傷の大けがをし、長期の療養生活に入った。
それからおよそ1年後、ケガから回復し、まだデビュー前だったザ・バンドのメンバーたちと例の「ビッグ・ピンク」と呼ばれたピンク色の家の地下室で、セッションを行った。
最初はトラディショナルやルーツ・ミュージックなどを互いに教え合いながらリラックスした雰囲気で演奏を行ったが、次第に新しい曲が生まれ、新曲のデモテープとして録音されることになった。それらを収録した、言わばデモ録音&アウトトテイク集のようなアルバムである。
ディランが書いた曲が大半だが、それ以外にも、トラディショナルやザ・バンドのメンバーが書いた曲なども収められている。
全体にはカントリーやブルースなどのルーツ・ミュージックの色が濃く、売れ筋のポップなアレンジがされたような曲はひとつもない。
セッションをしながら即興で作られた曲なども多いらしく、録音も通常のレコーディングに比べるとずっとラフなもので、これがこのアルバムならではの味わいとなっている。
このとき録音された新曲はカセットやアセテート盤として業界内に流通し、バーズやPPM、マンフレッド・マン、フェアポート・コンヴェンションなどがカバーしてリリースした。
その業界内に流通していた音源が『グレイト・ホワイト・ワンダー』などのタイトルでロック史上初の海賊版として世に出回ることになった。
それにしてもディランは「ロック史上初」がやたらと多いな。海賊版もだったのか。
海賊版で出回っていたものをその対策の意味も含めて公式にリリースしたということで、後のブートレッグ・シリーズの元祖とも言える。
マニアックなアルバムではあるけど、リラックスした雰囲気でディランとザ・バンドが純粋に音楽を楽しんでいる気持ちが、温度高めの音から溢れている。秋の夜長などに聴くには良いアルバムだ。
↓ 「オッズ・アンド・エンズ(Odds and Ends)」
↓ 後にザ・バンドの1stに収録される「怒りの涙(Tears of Rage)」を、ここではディランがヴォーカルを取っている。