⭐️⭐️⭐️
Radiohead
“Kid A” (2000)
1997年の前作『OKコンピューター』の世界的成功で、レディオヘッドは突如としてロック・シーンの頂点に立った。フロントマンであるトム・ヨークは、時代の寵児として期待を一身に集め、ロック界の救世主として崇められた。
しかし、それに続くライヴ・ツアーで彼は肉体的にも精神的にも疲弊し、ロックスターとして扱われることにも嫌気が差し、極度のスランプに陥る。ギターを触るのも嫌になり、アルバム制作のためにスタジオに入っても、まったく曲が生まれなかった。
ここまでは彼も、カート・コバーンと同じような道を歩んでいる。
その結果トム・ヨークはギターを投げ出し、エレクトロニカや現代音楽の海に飛び込むというロックに対する背信行為、ロックスターとしての自殺行為に及んだ。
そして結果的に残されたのは、トム・ヨークの遺体ではなく本作『キッドA』だったことは、悲劇ばかりが起こりがちなロック史においては、奇跡のような結末だ。
本作は2000年9月にリリースされた、レディオヘッドの4枚目のアルバムである。
【オリジナルCD収録曲】
1 エヴリシング・イン・イッツ・ライト・プレイス
2 キッド A
3 ザ・ナショナル・アンセム
4 ハウ・トゥ・ディサピア・コンプリートリー
5 トゥリーフィンガーズ
6 オプティミスティック
7 イン・リンボー
8 イディオテック
9 モーニング・ベル
10 モーション・ピクチャー・サウンドトラック
ロックの概念から大きく逸脱した、決して親しみやすくない、難解とも言える異形の作品でありながら、なんと全米1位、全英1位、日本でもオリコン総合で3位と、世界中で大ヒットし、400万枚以上を売り上げた。
今思えば、わたしも含めてあの時代のロックファンたちは「レディオヘッド熱」とでもいうべき熱病に浮かされていたようにも思えるけれども、しかし音楽にしろ文学にしろ映画にしろ、程よく難解なところがあり、人によって受け取り方が様々である作品であるほど、人々の興味を唆り、競うように答えを探したりして、新鮮な芸術的刺激に興奮したり感動したりするものだ。きっと初期のボブ・ディランなどもそうだったはずだ。
しかし本作のヒットはそれだけではないだろう。
この作品から受け取る「想像できない未来に対する不安感」や「高度すぎる現代文明における疎外感」といったものに、リアルに共感したのだと思う。また、本作にはどこか、絶望のようにも幸福のようにも感じられる不思議な空気感があり、それによって音楽は独特の幽香を醸し出している。
当時は賛否両論が激しく巻き起こった「問題作」だったが、わけのわからないものでは決してないし、ポップな瞬間も、シビれる瞬間も、滅法美しい瞬間もあり、車でドライヴしたり爆音で聴きたいとは思わないけれども、夜中にヘッドホンで聴いていると、ときに神秘的な美しささえ感じることもある。
↓ 不穏なベースラインとフリー・ジャズのようなホーンがカッコいい「ザ・ナショナル・アンセム」。
↓ ジョニー・グリーンウッドがアレンジに使用した無調のストリングスが感動的なほど美しい「ハウ・トゥ・ディサピア・コンプリートリー」。
(Goro)
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