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The Who
“Tommy” (1969)
わたしはオペラが苦手だ。
クラシックは幅広く聴いてるけれども、オペラはほとんど手をつけていない。モーツァルトは好きだけれども、彼のオペラ作品はほとんどスルーしている。ワーグナーもよく聴いたけれども、序曲や前奏曲など歌のない部分だけを集めたやつばかりで、オペラ本編はついぞ聴いたことがない。ついでに言うと、ミュージカルも苦手だ。
歌ったり踊ったりまどろっこしい展開、面白くもないストーリー、カケラもないリアリティ、音楽と演劇を融合させていったい何が良いのかがわたしには理解できないのだ。
だからロックという、リアリティが命みたいな音楽で、何を血迷ってオペラなんかを作るのかと、若い頃はまったく気に食わなかったものだ。
もちろん大好きなザ・フーなので。『トミー』のCDは買って聴いたし、ケン・ラッセル監督による映画も、ちゃんと劇場で観た。でもやっぱり好きになれなかったのだ。ザ・フーの代表作のように評価されてるけれども、わたしはそれ以外のアルバムの方が良いと思えたし、この【名盤500】でもスルーしてきた。
しかし、だ。
先日、何十年ぶりかに聴いてみると、これがね、なかなか良いではないか。
「ロック史上最大の変態アルバムのひとつ」というわたしの評価は変わらないが、しかしそれも良い意味での「変態」に、印象は変わった。
わたしも人生経験を積んで、ようやく『トミー』を心から楽しめる変態へと成長していたのだろう。
本作はザ・フーの4枚目のアルバムとして、1969年5月に2枚組LPでリリースされた。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 序曲
2 イッツ・ア・ボーイ
3 1921
4 すてきな旅行
5 スパークス
6 光を与えて
SIDE B
1 クリスマス
2 従兄弟のケヴィン
3 アシッド・クィーン
4 アンダーチュア
SIDE C
1 大丈夫かい
2 フィドル・アバウト
3 ピンボールの魔術師
4 ドクター
5 ミラー・ボーイ
6 トミー、聞こえるかい
7 鏡をこわせ
8 センセイション
SIDE D
1 奇蹟の治療
2 サリー・シンプソン
3 僕は自由だ
4 歓迎
5 トミーズ・ホリデイ・キャンプ
6 俺達はしないよ
物語は主人公のトミーが、母親と浮気していた男を父親が殺すところを目撃し、その精神的ショックで「見えない」「聴こえない」「喋れない」の三重苦となるところから始まる。
さらにトミーは従兄弟からの執拗ないじめに遭ったり、叔父からは性的虐待を受けたりと過酷な少年時代を送るが、成長すると突然ピンボールの才能を開花し、大会でチャンピオンを負かして一躍有名人になる。
その後三重苦の障害が完治し、「見える」「聴こえる」「喋れる」ようになると、支持者たちから奇蹟のカリスマのように扱われるが、しかし調子に乗ったトミーがまるで独裁者のように振る舞うようになると、最後には支持者たちが離れていく、というストーリーだ。
とまあ、こう書けば一応筋の通ったストーリーに見えるが、実際にはいろいろな要素をごちゃごちゃと詰め込みすぎていて、映画を観てもしっちゃかめっちゃかのような印象を受けたものだ。
しかし、ストーリーなど気にせず、音楽だけを聴けば、親しみやすいメロディーや美しいメロディーに溢れていることに気づく。もちろん、ロックンロールの要素もちゃんとある。「恐るべき子供」ピート・タウンゼントがたったの24歳でこれを作ったのかと思うと、畏敬の念を抱かざるを得ない。
そして今回あらためて思ったのが、そのアレンジの良さだ。
プロデューサーのキット・ランバートは、オペラと言えば誰もが考えるように、派手にオーケストラも導入したいと提案したようだが、ピートは拒否したという。オーケストラを導入したり、変な楽器やSEなどをオーバーダビングせず、ライヴで再現できるように、4人だけの演奏にこだわったことが、本作が「ロック」としてなんとか持ちこたえた、勝因でもあっただろう。
今回、Apple Musicで聴いたバージョンはリマスターのせいもあるのか、とても音が生々しくて良かった。特上の「名盤」に特有のあの神がかった「艶」というべきものが本作の音からも感じられる。聴き始めていくらも経たないうちに「こりゃ名盤だな」と感じる、アレである。聴いていて、鼓膜が感じちゃって仕方がないような、アレである。
これ以降に作られたロック・オペラもいろいろ聴いてきたけれども、ちゃんとオペラという歴史ある文化と向き合い、徹底的に作り込んで、堂々たる出来に仕上げたのはやはり本作ぐらいなのである。
若い頃のわたしはそれが気に入らなかったのだろうけれども、今ではすっかり好きになってしまった。
↓ シングル・カットされて全英4位、全米19位のヒットとなった「ピンボールの魔術師」はザ・フーの代表曲のひとつとなった。
↓ ラストを締めくくる終曲「俺達はしないよ」。後半部分は「シー・ミー・フィール・ミー」というタイトルでシングル・カットされ、全米12位まで上がるヒットとなった。
(Goro)
