
⭐️⭐️⭐️
Wilco
“Summerteeth” (1999)
「オルタナ・カントリー」という希少な看板を掲げていたウィルコが、その看板さえも投げ捨てた、冒険心に満ちた意欲作だ。
音楽性は似ても似つかないのに、当時から「アメリカのレディオヘッド」などと評されたのはその何をやり出すかわからない冒険心やその独自性、ジャンルに囚われない着想、常にその動向が気になる存在感、という共通点であっただろうと思われる。
本作では、フロントマンでソングライターのジェフ・トゥイーディーの当時の結婚生活の危機や鬱状態、そして薬物依存を反映したとてつもなく暗くて絶望的な歌詞と、ウィルコ史上最も明るいポップで賑やかなサウンドの組み合わせという極めて異常なギャップが魅力の作品だ。
その異常性はビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』を彷彿とさせるもので、製作過程もトゥイーディーとマルチ奏者のジェイ・ベネットによるスタジオ作業が中心となり、バンドのメンバーは傍観しているような状況だったという。
ウィルコのベーシスト、ジョン・スティラットはインタビューで次のように語っている
「『Summerteeth』の制作中、僕の役割はほとんどなかった。ジェフとジェイがスタジオにこもって、二人だけの世界で音を重ねていくのを、外から眺めているような気分だったよ」。
本作はウィルコの3rdアルバムとして、1999年3月にリリースされた。
【オリジナルCD収録曲】
1 キャント・スタンド・イット
2 シーズ・ア・ジャー
3 ショット・イン・ジ・アーム
4 ウィー・アー・ジャスト・フレンズ
5 アイム・オールウェイズ・イン・ラヴ
6 ナッシングス・エヴァー・ゴーイング・トゥ・スタンド・イン・マイ・ウェイ(アゲイン)
7 ピーホールデン・スイート
8 ハウ・トゥ・ファイト・ロンリネス
9 ヴィア・シカゴ
10 ELT
11 マイ・ダーリン
12 ホウェン・ユー・ウェイク・アップ・フィーリング・オールド
13 サマー・ティース
14 イン・ア・フューチャー・エイジ
「殺人」「家庭内暴力」「孤独」「被害妄想」「薬物依存」といった思いっきり暗いテーマに彩られた歌詞を知らなければ、実にポップで爽快な、目覚めのBGMやドライヴ・デートにもぴったりなアルバムである。
ジェフ・トゥイーディーは本作について次のように語っている。
「あのアルバムを作っていた頃の僕は、自分でも気づかないうちに崩壊しかけていた。歌詞を書くことは自分にとってのセラピーだったけれど、それが音楽と合わさった時に、これほどまでに奇妙なものが出来上がるとは思っていなかった」(ジェフ・トゥイーディー自伝『Let’s Go (So We Can Get Back)』)。
その奇妙さは、ジェイ・ベネットが狂ったように多重録音を重ねて空間を埋め尽くした、ピアノやオルガンやラップスティールやメロトロンやシンセサイザーやバリトンギターやE-bowギターやスライドベースやバンジョーや鉄琴やファルフィサやベルやタンバリンや手拍子やコーラスなどによって、より強調された。
まるで華やかな光と音に彩られたテーマパークの中で起きた無差別大量殺人事件の現場検証みたいに、聴くたびに新しい発見があって楽しめる。
↓ ウィルコ史上最も軽快でキャッチーで親しみやすいとも言える代表曲のひとつ「ショット・イン・ジ・アーム」は、中毒と絶望についてのポップ・ソングだ。
↓ ヒット曲を欲しがるレーベルのためにシングル・カットされた、最高に明るいパワー・ポップのような「キャント・スタンド・イット」は、「もう耐えられない、もう耐えられない」と繰り返し歌われる。
(Goro)