一発屋の負け犬から最先端の鬼才へ 〜ベック『オディレイ』(1996)【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#361

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【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#361
Beck
“Odelay” (1996)

本作が出る頃までに、ベックはすでに「2年前に”ルーザー”がヒットした一発屋」ぐらいに思われていた。

わたしも「そうかも」と思っていた。

ブルースやフォークといったルーツ・ミュージックと最新のヒップ・ホップの手法を融合させた「ルーザー」は、その歌詞も相まって衝撃的で、時代を象徴する曲とも評価され、全米10位まで上昇する大ヒットとなったのだ。

しかし、そのヒットの勢いに任せてゲフィン・レコードとメジャー契約してリリースされたアルバム『メロウ・ゴールド』はしかし、いかにも急拵えで作ったような散漫な印象で、わたしはずいぶん期待外れだったことを憶えている。当時はそれを流行りの言葉で「ロー・ファイ」と呼んで好意的に評価されてはいたけれども、今あらためて聴いてもやはり、まだどこを目指しているのか肚が決まっていない、迷走したアルバムに聴こえる。

そして、通算5枚目となる本作も、はじめは『メロウ・ゴールド』と同じくトム・ロスロックとロブ・シュナプフをプロデューサーとして、もっと落ち着いたアコースティック・アルバムを作る予定だったという。本作の最後に「ラムシャックル」という眠りを誘う子守唄みたいな曲が入っているが、全編がそんな曲で埋め尽くされるところだったのだ。

しかし、ベックはよりアップ・テンポな要素を求めたため、彼らに替えてヒップ・ホップ系のプロデューサーとして活躍していた、ダスト・ブラザーズを起用した。

これが大正解だった。ルーツ・ミュージックをヒップ・ホップの手法で再構成した楽曲は、まさに時代を象徴するスタイルの鮮烈なポップ・ソングとなった。アルバムには迷いがなく、楽曲の方向性が定まり、聴きやすく、楽しみやすくなった。

本作は1996年6月にリリースされた。カッコ内は米オルタナ・チャートの順位。

【オリジナルCD収録曲】

1 デヴィルズ・ヘアカット(23位)
2 ホットワックス
3 ロード・オンリー・ノウズ
4 ザ・ニュー・ポリューション(9位)
5 デリリクト
6 ノボカイン
7 ジャック・アス(15位)
8 ホエア・イッツ・アット(5位)
9 マイナス
10 シシーネック
11 レディメイド
12 ハイ 5 (ロック・ザ・キャッツキルズ)
13 ラムシャックル

アルバム完成時、ゲフィン・レコードの重役からは「これは君のキャリアにおける大きな間違いだ」と酷評されたという。ベックはそれで、自分のキャリアが終わったと思い込み、落ち込んだという。

しかしゲフィンの重役の見込みは大きく外れ、アルバムは全米16位、全英17位、前作の2倍以上となる250万枚を売り上げる大ヒットとなり、グラミー賞の最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞と最優秀男性ロック・ヴォーカル・パフォーマンス賞を受賞し、さらには、ローリング・ストーン誌、ヴィレッジ・ヴォイス誌、 NME誌で年間最優秀アルバムにも選ばれた。

この起死回生の大逆転によってベックは、それまでの「一発屋のダサい負け犬キャラ」から、「ポップ・シーンの最先端を行く鬼才」へと一気に評価が変わったのだった。

↓ 米オルタナ・チャート23位、全英22位のヒットとなった、オープニングを飾る「デヴィルズ・ヘアカット」。

Beck – Devils Haircut (Official Music Video)

↓ アルバムからの最初のシングルで米オルタナ・チャート5位まで上昇した「ホエア・イッツ・アット」。この曲でグラミー賞最優秀男性ロック・ヴォーカル・パフォーマンス賞を受賞した。

Beck – Where It's At (Official Music Video)

(Goro)

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